アフターコロナの世界 私たちはどのような未来をつくるのか
2021.01.04 00:00
2021年が幕を開けた。しかしコロナと人間社会の闘い、共生への模索はこれからも続いていく。私たちはアフターコロナの世界を意識しながら、ツーリズムの未来をどう切り拓いていくべきか、考えていく必要がある。
自動車産業は100年に1度の変革期を迎えているという。内燃機関を動力源とする自動車から電気自動車への移行が急加速するのが必至だからだ。背景にはCO2削減による温暖化を阻止しつつ資源(石油)枯渇を回避し、移動手段のサステイナビリティーを確保しなければならない事情がある。
観光産業も100年に1度の世界的なパンデミックによって大変革期を迎えている。しかし変革によって観光産業に求められているのは、単なるサステイナビリティーの確保を超えた概念の実践であるようだ。自動車産業と同様、以前から観光産業にもサステイナビリティーを意識した取り組みが求められていた。しかしコロナ禍後の観光産業には、サステイナビリティーの確保を当然のこととしたうえで、地域貢献などより高い意識を持ちながら旅行と向き合う「コンシャストラベル」が求められるという見方が生まれている。
つまり旅行や観光のマイナス効果を抑制したサステイナブルトラベルを実践することにとどまらず、旅行や観光のプラス効果をより積極的に社会にもたらしていくことが必要になるというわけだ。それは自動車産業以上に社会の広い範囲に影響を与える観光産業だからこそ求められるものでもある。
世界50カ国以上で観光・旅行ビジネスにかかわるスカイスキャナーはウィズコロナ時代の新しい旅行トレンドを探るため、世界規模の調査を実施。20年9月に「ニューワールド・オブ・トラベル」レポートとして発表している。それによると「海外旅行をするか否かの意思決定に影響を与える要素は何か」との問いに対する旅行者の回答で、最も影響度が高いとされたのは「旅行制限がいつ緩和されるか分からないこと」であり、当然の結果だが、2位「旅行先の現在・今後の状況がわからないこと」と僅差の3位には「他の人の健康への懸念」が入った。人々はパンデミックの体験を通じて、旅行の意思決定に他者への気遣いを重要な視点として取り入れるようになった。それは旅行受け入れ地に対しても想像力を働かせるということだ。
旅行の意思決定のプロセスはより複雑になり、「旅行費用が安くすむから」といった経済的要因やスケジュール的要因だけでなく、社会的・倫理的な要因がこれまで以上に考慮されるように変化してきているわけだ。
またレポートは「調査を通して不確実な状況に対する旅行者の寛容さを見出した」と報告したうえで、「旅行はあらゆる人や場所、文化に共感し、リスペクトし、理解する心を生み出す。こうしたことの価値はこれまで以上に重要」としている。その価値を体現する行動がコンシャストラベルといえよう。
コンシャストラベルは、旅行の持つプラスの効果を最大化し、旅行者、観光産業、観光産業従事者、受け入れ地域のいずれもが効果を享受できるように設計された旅行形態だ。そのような旅行形態が理想的であることは、以前から観光産業にも共通認識としてあった。にもかかわらず実現の困難さから、きれいごととして理想を遠ざけていたのは否めない。しかし、いまや理想を実現していかなければ産業が成り立たなくなる瀬戸際に立っていることに、パンデミックが気付かせてくれた。
そうした危機感を観光産業の当事者たちが共有し始めている。スカイスキャナーは、パンデミック以前から「新しいサステイナブル(持続可能)な旅の実現を目指し世界をリードすること」をブランドミッションに掲げ、さまざまな取り組みを行っている。たとえば、CO2排出量が平均より少ないフライトに「Greener Choice」マークを表示し、マーク付きフライトだけをフィルタリングする機能も開始し、19年には約1000万人が該当フライトを選択している。また旅行業界の主要企業と共に英国サセックス公爵(ヘンリー王子)が主導するパートナーシップ「トラバリスト」を設立し、サステイナブルな旅の実現を目指し各種課題の解決に取り組んでいる。
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