無連絡キャンセル問題 宿泊施設の防衛策を考える
2020.11.23 00:00

(C)iStock.com/bemardbodo
宿泊施設はかねてからノーショー、いわゆる無連絡キャンセルに頭を悩ませてきた。しかしこのほど、栃木県で旅館のノーショー被害に対し損害賠償の支払いを命じる判決が下された。一石が投じられた形のノーショー問題について、あらためて考えたい。
経済産業省がまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」は飲食店業界のノーショーによる被害額が年間2000億円にも及ぶと推計している。同レポートは宿泊業と飲食業の違いについても触れ、「宿泊業では、予約時にキャンセルポリシーが示され、無断キャンセル時のみならず、当日キャンセルの場合でも予約金額の100%の支払いが請求される場合があることが、社会的にも広く認知されている」と説明している。
しかし「社会的に広く認知されている」か否かはともかく、現実的にノーショーに頭を悩ませる宿泊施設が多いのは飲食店業界と変わらないところだ。飲食店業界と業態や予約プロセスが似ている宿泊業界においても、2000億円とまでは言わぬまでも相当額のノーショー被害があるというのが宿泊施設側の実感だろう。
京都市旅館稼働実態調査(19年度)では、「受け入れで発生したトラブルや問題点」についてのアンケート結果(複数回答)を明かしているが、市内の旅館の40.7%が外国人のノーショーがあったと回答し、日本人客のノーショーがあったとの回答も30.9%に達している。ノーショーは決してレアケースではなく、宿泊施設においては日常的な出来事となっているわけだ。
今年9月、宿泊事業者を悩ませるノーショー問題に一石を投じる判決が宇都宮地裁で下された。判決では、今年の正月に発生したノーショー被害にあった旅館の訴えを認め、被告側に計280万円の損害賠償の支払いを命じた。ノーショー被害に関しては、キャンセル料の支払いに応じない相手方から強制的に損害額を回収するのは手続きのコストに見合わないこともあって、回収を断念し泣き寝入りするケースが多い。
しかし今回は書き入れ時の正月に発生したノーショーであり、被害施設の1つでは予約日に10人もの宿泊客が姿を見せず被害額が大きかったことや、同じ人物が複数の旅館に同様の被害を与えていることが判明したという点で特異だった。また相手方との交渉を続けたものの不調に終わってしまったこともあり、同様の被害にあった旅館側の8軒が民事訴訟に踏み切ったものだ。
被告は自分が勤務する会社の慰安旅行を昨年8月に予約したもののその後連絡が取れない男性従業員2人と当該企業の女性経営者。男性2人は裁判にも姿を見せず、本人とのコンタクトは未だ取れないまま。女性経営者には使用者責任が問われた。
今回の判決についてはメディアでも報道され、ノーショーに関する注目も高まった。原告側だった那須塩原市の湯守田中屋・田中佑治専務取締役は「今回の判決に関する報道が出て、これまでは逃げ得を通してきた者にも変化があったようだ。送付しても無視されていたキャンセル料の請求に対し、報道後に振り込みがなされたケースもあった」と一定の効果があったとしている。しかし肝心な今回の賠償金については、現在も女性経営者との間で支払い方法や期間についての話し合いが続いており「まだ一銭も受け取っていない」(田中専務)状況だという。
事前決済普及に取り組むが…
ノーショー問題は宿泊業界共通の大問題であり、業界団体も苦慮している。日本旅館協会では「宿泊客にはノーショーが悪質な行為だとの認識が薄く、宿泊客側に期待してもなかなか改善は難しい」とみており、ノーショー対策も兼ねて事前決済の普及に取り組んでいる。16年にはインバウンド客の利便性向上とノーショー防止を兼ねて、予約時に決済を担保するペイパル社と業務提携し会員施設のペイパル決済の導入を進めた。
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