コロナ後の将来を見据えて

2020.05.04 00:00

 世界中のツーリズム関連メディアは新型コロナ一色である。ニュースのほとんどはツーリズム産業が置かれている状況の困難さに関わるもので、記事を読むほど悲観的な気分になる。そこで同じコロナ関連でも少しニュアンスの異なる話題を取り上げることとしたい。

 世界最大の感染国となった米国では厳しい外出禁止令が敷かれ、旅行需要はほとんど皆無だ。3月末時点で平均70%の客室が空いており、2月半ばから3月末までのホテル業界の客室に関わる損失は50億ドル(約5000億円)と報じられる。こうした中で数少ないポジティブな出来事として注目されるのはコロナ感染者への医療の提供に民間の宿泊施設が大きな役割を果たすことができ、ホテル事業者も枯渇した収入の一部をリカバーできるというものである。

 米国のホテル業界団体は3月に「希望をもたらす宿泊業」というプロジェクトを立ち上げ、コロナ対策に客室を提供する用意があるホテルに手を挙げるよう求めた。その結果すでに1万5000軒のホテルが参加し、そのリストが米国福祉保険省に提供されている。シカゴ市役所はこれを使い2000室の客室を確保し軽症の感染者の隔離施設としている。

 プロジェクトを立ち上げたホテル団体は会員ホテルが国や自治体と契約する際の契約書の雛形まで用意しているそうだ。日本でも最近ようやく同様の動きが出ているが、状況の深刻さの違いもあって現時点では米国ほどの大きな動きになっていないようでいささか残念に感じる。

 一方、最初にコロナの被害にあったが強烈なロックアウトを行い現在はほぼ抑え込みに成功したとされる中国ではツーリズムの回復に向けた動きがすでに始まっている。シートリップの親会社であるトリップドットコムグループの上席CEOの孫潔氏が米国のツーリズム関連サイトのインタビューに応じて中国市場の現状と今後の見通しを述べているので紹介したい。

 孫氏によればコロナ発生後最初のチャレンジは膨大な数の旅行の取り消しと変更への対応だった。2回目のチャレンジは今現在進行中で、コロナがコントロールされつつある中で消費者の意欲をかきたて旅行に前向きな姿勢を引き出すため、特に国内旅行分野で独創的な商品を迅速に打ち出すことが不可欠としている。

 長い期間ロックアウト下で耐えてきた国民の旅行への期待は大変大きい。世界的には病気の蔓延は収まっておらず現在は国内の特に大都市への旅行が関心を集める。国外サプライヤーの資金不足を助けるために前払いと値引きをセットにした商品を作り出している。これにより消費者もサプライヤーもメリットを受ける。

 多くの消費者はコロナ爆発前に旅行の予約と支払いを済ませ、突然取りやめざるを得なかったわけで、状況が改善した現在の旅行意欲は非常に高い。さらにコロナ危機の将来への影響については、グローバル化が進む中での感染症の脅威が今回明らかになり、今後は「健康な旅行者」をいかに見つけ出すかが課題としている。

 本稿執筆は4月半ばだが発行は5月になる。その頃には驚異的なペースで回復を始めるツーリズムの世界が見られることを願う。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。