リテーラー思考 アンシラリーにファン獲得の糸口
2020.04.20 00:00

(C)iStock.com/hang10 iStock.com/bonchan
海外のホテル業界で宿泊に固執した販売を見直す動きが高まっている。周辺の商材を扱うことで多様化する顧客ニーズに沿った購買体験を提供し、ファンを獲得する試み。特定の商品を生み出すプロバイダーから脱し、幅広い品ぞろえをもつリテーラーの思考に基づく戦略だ。
米国のホテル業界をめぐる話題の中で、ちょっとしたニュースが目を引いた。宿泊予約サイトのホテルズ・バイ・デイが昨年12月、プールやフィットネスジム、スパの利用チケットを販売するデイアックスに成長性を見いだし、傘下に収めた。ホテルズ・バイ・デイは15年創業のスタートアップで、日中の空室を販売する事業を主軸としてきた。客室以外の付帯施設など周辺素材(アンシラリー)を扱うデイアックスに目を付けたのは、付帯施設の稼働率が40%程度と低いにもかかわらず、ホテル側が手つかずな状況に商機を見いだしたからだ。宿泊客による施設利用というこれまでの大前提を崩し、コア商品の宿泊にひも付けずに保有資源を有効活用して副収入につなげる。消費者がひとつの体験を契機にファンとなり、企業ブランドに対するロイヤルティーが生まれる可能性もある。
同じく新興企業のデイケーションも同様のビジネスモデルで、プールなどの利用チケットを販売する。両社ともにマリオットやヒルトン、ハイアットなど大手の有力ホテルチェーンと提携し、商品基盤を拡大している。
米国のホテル業界では最近、こうした“アメニティー”が何かと話題だ。アメニティーとは、プールなどの付帯施設をはじめ、周辺地域のアクティビティー、別荘などのバケーションレンタルではホストが所有するゴルフクラブ利用権などを指し、対象は幅広い。この潮流は航空業界ですでに定着しているアンシラリー販売に似ている。座席や食事のアップグレード、空港ラウンジの利用券販売、降機後のレンタカー手配など、航空会社のアンシラリー収入は年々増え続け、いまや重要な副収入となっている。
航空業界のアンシラリーが文字どおり、コアの飛行と切り離せず付随するものであるのに対し、ホテルのアンシラリー販売は宿泊を前提とせずとも成り立つ点が特徴だ。この新たな商材を販売する戦略について、セーバー・ホスピタリティー・ソリューションズのフランク・トランパート・アジア太平洋地区マネージングディレクター兼最高商業責任者(CCO)は、「宿泊施設は客室のプロバイダーとしてだけでなく、リテーラーとして新たな変革が求められている」と指摘する。
セーバーが提案するのは、ブランドロゴ入りの各種製品やレストランでの食事、体験プログラムやイベントなどの販売だ。「これまでは宿泊日、人数、客室タイプを選ぶのが一般的だったが、Tシャツやマグカップを購入でき、よければ客室もというように変わる」と予見する。
背景には、個々の属性や嗜好に合わせてパーソナライズされた提案や体験を求める顧客ニーズの高まりがある。小売業界ではAI(人工知能)による顔認証技術やアルゴリズム、スマートデバイスを用いて、購入する物を瞬時に提案する試みが行われている。トランパートCCOはAIを活用して個人の興味に応じた提案を行う販売トレンドを「Aコマース」と呼ぶ。消費者は柔軟性、豊富な選択肢、シームレスな購買体験を求めており、旅行プロバイダーにも同様の体験を期待すると指摘する。
同社はこの販売環境をホテル業界にも提供するため、料金、在庫、予約を包括的に管理する単一のプラットフォーム「SynXis(シナキシス)セントラル・リザベーションズ」を開発した。過去の予約履歴や会員プログラムへの加盟の有無といった顧客情報を1つのプラットフォームで管理し、パーソナライズした提案や販売を支援する。ランガムホテルズをローンチパートナーとして、20年中に移動や体験、ブランド製品などをオンラインで販売できるようにする。日本のホテルや旅館にも提案している。
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