IATA「誇り持てる飛行に」 世界的課題に対応
2020.02.17 00:00
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スイス・ジュネーブにあるIATA(国際航空輸送協会)本部で昨年12月に開催されたグローバル・メディア・デーに参加した。アレクサンドル・ドゥ・ジュニアック事務局長兼CEOが航空業界が直面する課題への対応策を示した。
IATAは世界の航空会社の業界団体として1945年に設立された。現在は290の航空会社がメンバーに名を連ね、総輸送量は民間航空業界全体の82%を占める。世界中の航空や旅行関係のメディアを集めて年1回開催するグローバル・メディア・デーは、航空業界の現状と今後の見通し、業界が直面する問題について、IATAのトップや各部門責任者から直接話を聞ける貴重な機会である。今回は日程が2日間に拡大され、欧米をはじめ、中東やアフリカ、アジア、オセアニア、南米など各地から150人以上が参加した。
プログラムは、航空業界の現状と見通しをはじめ、安全とフライトオペレーション、セキュリティー、乗客に向けた新機能、シームレスな移動、リテール販売(NDCなどの流通プログラム)、アクセシビリティー、航空業界におけるジェンダーバランスの改善など多岐にわたる。二酸化炭素(CO2)排出量の削減や持続可能な燃料など、航空と環境をめぐるテーマについても、集中的に取り上げられた。
ジュニアックCEOによると、IATA加盟社が2019年に輸送した旅客数は45億人以上となった。2地点間を結ぶ直行便の路線数は2万2000線以上に及び、98年の2倍以上という。路線数が増え続ける一方で、運賃は手ごろな価格になった。業界平均の往復運賃(諸税別)は、1998年当時より62%低下する見込みだ。「新興国の若者も、彼らの両親が同じ年齢のときには夢見ることしかできなかった旅行の機会が得られることを意味している」(同)
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航空会社の業績については、経済成長の鈍化や貿易戦争などを受けて、2019年6月に発表した純利益の予想を下方修正し、259億ドル(約2兆8490億円)となる見通し。ただ、経済サイクルは底を打ったと見て、20年は293億ドル(約3兆2230億円)に拡大すると予想する。ジュニアックCEOは「20年はより良い年になると期待できる」と話した。
カーボンニュートラルな成長へ
今回のイベントで特徴的だったことの一つは、環境問題に特に焦点を当てたことだ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界の航空業界が排出するCO2は、人為的なCO2排出量全体の約2%を占める。
環境への意識の高まりを背景に、欧州で温室効果ガスを大量に排出する飛行機の利用は恥ずべきふるまいとする「Flight Shame」という言葉が生まれている。しかし、それよりずっと以前の08年から、すでに航空業界は本格的な気候変動対策に着手していたとジュニアックCEOは指摘。これには、燃費の良い新機材への投資(約1兆円)や持続可能な航空燃料(SAF=代替航空燃料)の活用(約60億ドル)などが含まれている。
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IATAは09~20年の間に年間平均1.5%のペースで燃費を改善することを約束していたが、実際にはこの目標を0.8%上回る2.3%のペースで改善を実現した。さらに20年からは、CO2の総排出量を増加させないカーボンニュートラルな成長を約束した。
19年6月に開催した年次総会では、「国際航空のためのカーボンオフセットと削減スキーム」(CORSIA)の導入を各国政府に求める決議案を採択した。カーボンオフセットは、CO2などの温室効果ガスの排出量を排出削減への投資活動で相殺する手法である。CORSIAは21年に開始される。
さらに、IATAは50年までに温室効果ガス排出量を05年の半分のレベルに削減すると約束した。「私たちの目標は、持続可能、かつ誇りをもって世界を飛行できるようにすることだ」(ジュニアックCEO)
着々とファストトラベル促進
乗客に向けた新たな機能、シームレスで効率的なエンドツーエンドの旅などのテーマについては、ニック・カリン上席副社長がIATAグローバル旅客調査2019のデータを紹介しながらブリーフィングを行った。同調査は19年4~6月に実施されたもので、手荷物の取り扱いや空港内の移動、機内Wi-Fiの利用など、顧客満足にかかわるさまざまな項目について、世界160カ国以上の1万人以上が回答した。
IATAは、空港手続きの自動化プログラム「ファストトラベル」を促進している。これには、自動チェックイン、手荷物の自動預け入れ、必要書類の確認、再予約、手荷物の追跡など、出入国審査を含めた各種手続きの自動化が含まれる。旅客調査では、そのほとんどすべての項目において、前年よりも顧客満足度が上がった。
旅客がスマートフォンを使って航空券の予約からチェックイン、搭乗などを行う手続きのデジタル化も進んでいて、チェックインでは51%の旅客が手持ちのデバイスからオンラインで手続きを行った。18年はこれが47%だった。
顔認証に代表される生体認証(バイオメトリクス)を利用した手続きも増えており、同調査では46%が紙製のパスポートより生体認証を利用したいと回答。一方、紙製のパスポートを好むのは34%、どちらともいえないのは20%だった。
IATAは、バスや自動車が寄りつく空港のカーブサイドに旅客が着いてから搭乗ゲートまで、顔、指紋、虹彩など単一の生体認証により空港の各種手続きを可能にする「OneID」(ワンID)への移行を、国や空港会社と連携しながら今後も促進していく。
アクセシビリティーや「25by2025キャンペーン」などのテーマも、参加者の関心が比較的高いように見受けられた。何らかの形で障害のある人を含めると、世界の潜在的な旅行者数は約10億人(世界人口の約15%)と見られ、人口の高齢化が進むにつれてさらに増えると予測される。IATAは車いすなど移動補助具の安全な輸送などの課題を含めて、空の旅のアクセシビリティーの改善に引き続き取り組んでいく考えだ。
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19年6月に発表した25by2025キャンペーンは、業界におけるジェンダー(性別)の多様性の向上を目指すもの。デジタル化が進むなか、航空業界でもスキルを備えた多様な人材が求められるが、「上級職および技術職の性別バランスは、本来あるべきものではない」(ジュニアックCEO)。女性の潜在能力の活用を目指すこのキャンペーンに賛同し誓約した航空会社はこの時点で59社あり、全日空と日本航空も含まれる。
これらの航空会社は25年までに上級職の女性の割合を最低でも25%にするか、現在の水準から25%増加させることを約束した。反応は大きく、IATAは引き続き参加を呼びかけていく。
取材・文/中西克吉
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