フランス政府、外客1億人目標先送り
2020.02.10 00:00
19年10月、フィガロ紙などが、フランス政府の来年度予算案に関して、14年から政府目標として公表していた20年の外国人旅行者1億人目標達成が困難になり、22年に延期されたと報じた。世界観光機関(UNWTO)の統計によれば、フランスは長年、世界最大の外客受け入れ国であり、1国で年間1億人という数字も世界初である。しかし、ここ数年は厳しい環境の下にあった。
15年1月シャルリー・エブドテロ、11月パリ同時多発テロ、16年7月ニース・トラックテロを経て政府は非常事態を宣言し、テロ対策を強化した。直後の16年は8270万人と前年(8452万人)から2%減少したが、17年はさまざまな施策が奏功し、8690万人と15年を上回る復活の勢いを示し18年は8940万人と過去最高となった。
それが突然に今回、経済・財務省予算局は19年当初予測9400万人が9100万人に減少し、1億人目標も2年延期すると発表した。理由は、「黄色いベスト運動」と英国のEU離脱に伴うポンド下落による旅行者減少としている。黄色いベスト運動は燃料税値上げ反対を掲げ、18年11月からフランス全土で毎土曜に大規模デモが行われ、時としてパリのシャンゼリゼなど繁華街での店舗破壊や警官隊との衝突の光景が広く海外に拡散した。1年後の今も運動は完全には終息していない。国として国際テロの影響をなんとか最小に抑えたが、国内紛争には手こずっているのが現状である。
そしてこの発表後、12月5日から政府の年金制度抜本改革に反対する80万人によるナショナルストライキが全国で始まった。年金財政の改善のために、現在職種ごとに42もある年金制度の一元化を目指す政府提案を拒否して、国鉄、パリ交通公団、航空、消防、病院、教育等多くの業種が参加し、特に年金開始時期で優遇されてきたとされる国鉄は無期限ストを掲げている。
クリスマス前の終結を目指す交渉も決裂し、年末もストは継続し、混乱は年明けまで続く様相であった。フランス内外の観光旅行者動向への影響も心配される。
一方で、これまで旅行者へのホスピタリティーの欠如が批判されてきたフランスも、テロ後は観光誘致についての行政や民間の意識にも多少の変化が見られるようだ。
16年12月の2週間、パリを含むイル・ド・フランス地域圏が始めた若い世代による観光ボランティアは、旅行者と地元住民の直接の接触と交流を目指す、これまでフランスではあまりなかった運動である。4回目になる19年夏は、観光・外国語を学ぶ学生から公募したボランティア650人が地域圏75カ所に配置され、旅行者に観光案内・情報提供を行っている。全員、背中に“May I help you”と書かれた紫色のブルゾン(フランス語では「黄色いベスト」を意識してか、公式には「紫のベスト」という)を着用した。
また、旅行者を対象としたフランスの公式観光サイトは、17年に従来のサイトを200万ユーロ投じて、14カ国語対応のサイト(www.france.fr)に改修済みである。
24年のオリンピックを目標とするフランスの長期的観光への取り組み姿勢に注目したい。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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