ニュースで振り返る2019年 大変革期の生き残りかけた苦悩くっきり
2019.12.23 00:00

(C)iStock.com/charles taylor
年末のランキングには毎年、旅行・観光業界に起きた環境の変化を報じるニュースが上位に並んできた。それらは市場構造や動向の変化、新制度の発足、あるいは大きな事件・事故や自然災害であることが多かった。しかし、19年に最も注目を集めたのは一つの世界的旅行会社の破綻だった。
読者がランキングの1位に選んだのは「英トーマスクックが経営破綻」(541点)だった。2000年代以降のランキングを見ると、個別企業の話題が1位になったのはこれが初めて。個別企業に関するニュースが3位以内に入るのもまれなことで、最近5年間では17年の2位に「てるみくらぶ破綻、弁済制度見直しに発展」が入っているだけだ。10年の日本航空(JL)の経営破綻でさえ2位だったことと比較すれば、トーマスクックの経営破綻の衝撃の大きさがうかがえる。
近代的旅行会社の先駆けとされる名門旅行会社の経営破綻そのものが大きな衝撃だ。破綻の影響で身動きが取れなくなった15万人もの旅行者の救出作戦が世界各地で展開されたニュースもインパクトが大きかった。しかし、多くのキーパーソンが1位に挙げたのはおそらく、近年の旅行業界や旅行ビジネスをめぐる一連の環境変化を象徴する出来事として受け止められた結果だったのではないか。じわじわと追い詰められてきた従来型の旅行ビジネスがついに崖っぷちから転げ落ちた。これまで旅行ビジネスに携わってきた業界人が、そんな感慨を持ってこのニュースを受け止めたのだと考えられる。
アンケートのコメントにもそうした感慨が見て取れる。「トーマスクックの経営破綻には、大きな衝撃を受けた。旅行業界を取り巻く環境変化が、もはや対症療法では対応しきれなくなったことの象徴ではないか」(ブルーム・アンド・グロウ・橋本亮一代表取締役)や、「近代旅行業の誕生、ツーリズムの民主化の事例として授業でも必ず取り上げるトーマスクックが破綻したニュースは最も印象深い。企業の自己改革の難しさを露呈した形だが、対岸の火事とは思えない旅行業経営者も多かったのではないか」(駒沢女子大学・鮫島卓准教授)といったコメントはその例だ。
個別企業の話題が上位に
今年のランキングは、トーマスクックの破綻以外にも、個別企業の話題が比較的上位に食い込んでいるのが特徴だ。7位の「ダイナミックプライス導入に悲鳴」(308点)は、純粋な意味での個別企業の話題ではないが、全日空(NH)とJLという2大民間航空会社が国内募集型企画旅行に価格変動型運賃(ダイナミックプライス)を導入するという、企業の営業方針に関するトピックだ。「JR東日本がびゅうプラザ閉鎖」と「JTB、相談料収受に挑むも半年で中止」はともに193点で11位となった。これだけ個別企業の話題が10位前後に並ぶのは、過去のランキングを振り返っても異例なことだ。

寄せられたコメントの中には「アクセスの営業終了に一番驚き、トーマスクックの経営破綻、びゅうプラザ閉鎖、ダイナミックプライス導入など平成の終わりとともにひとつの時代の終わりを感じ、業界の変化を意識させられる」(日本橋夢屋・清宮学専務取締役)もあった。最終的にアクセス国際ネットワークが21年3月での営業終了を発表することになった「JL、GDS戦略めぐり紆余曲折」(74点)は23位にとどまったが、これもひとつの時代の終焉を感じさせる企業の話題だった。
これらが上位に並んだ背景は何か。これまでは、旅行業界を取り巻く環境変化が市場全体や制度といった、大きな枠組みの変化として表れてきた。しかし、今年はそうした変化が一段と進行し、いよいよ各企業のビジネスそのものに具体的・個別的かつ深刻な影響を及ぼし始めた。19年のランキングをそう読み解くこともできる。
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