アルベルゴ・ディフーゾ協会ダッラーラ会長が語る「分散型ホテルの可能性」
2019.12.02 00:00
日本ファームステイ協会(JPCSA)は日伊国際農泊シンポジウムを開き、イタリアのアルベルゴ・ディフーゾ協会のジャンカルロ・ダッラーラ会長がアルベルゴ・ディフーゾの理念や日本での可能性について語った。
小さな村というのは、空き家が多数点在しており、年老いた人が多くいて、そこには若者を引き付ける仕事がないというイメージを持たれがちかもしれません。しかしアルベルゴ・ディフーゾが示す未来はそうした現実ではなく、小さな村においても田舎の生活スタイルや文化を前向きに感じることができるはずです。
オランダのアムステルダムは非常に大きなサイズの都市ですが、空港で「小さな村のように感じられる」とプロモーションしているのを見かけました。都市ですら、小さな村とPRするくらいですから、そこには人々を魅了する市場があるように思います。
アルベルゴ・ディフーゾとは分散型のホテルとも訳されますが、村全体を大きなホテルと見立てる発想のことです。村の中心の大きな1つの家をホテルのレセプションと見立てて、同じ機能を持たせます。それ以外の周辺の家はちょうど部屋のような機能を果たし、ホテルが水平方向に広がっていくイメージです。
観光客はまず心臓部のレセプション機能のある建物に到着すると、ホテルで提供されるすべてのサービスを受けることができます。心臓部では、共用部分もあり、コーヒーを飲んでくつろいだり、時には子供が遊べる部屋を用意しています。そして受付で鍵をもらい、係の人に部屋まで誘導してもらいます。当然、部屋では普通のホテルと同じように朝食も可能ですし、清掃が毎日行われます。
それは旅館と似ている部分があると思います。レセプションで最高のおもてなしを受けた後、スタッフが部屋まで同行し、その土地の文化やできる体験を紹介する点です。
ビジネスとして運営
アルベルゴ・ディフーゾはあくまでビジネスの観点から実施されるべきと考えています。投資して起業し、経営として実施される必要があります。趣味として空き家で客人を呼ぶ、夏だけ使うというものではなく、経済活動の一部として扱うべきだと考えています。また、新しくつくられた建物や部屋ではなく、すでに村にあるもの、さらには建物も伝統的なスタイルでそこに根差している必要があります。中心部から半径200m以内にいることを推奨しています。
そこでは住民が実際に生活している必要があり、生きたコミュニティーの存在も重要です。なぜなら、旅行者には生活そのものを価値あるものとして提供していくからです。注目すべきは、地域や住民と密接に関わっている点です。そこでは近くに住んでいる昔からの住人と顔を合わせ、あいさつや言葉を交わすこともあるでしょう。つまり単なる旅行ではなく、そこで生活するということなのです。
環境・社会的な負荷がないのも特徴です。その村に20~30の家がもともとあるとすると、それ以上の部屋はつくれないからです。一方、通常のホテルだと大きな建物を建てるため、環境に大きな負荷がかかります。通常のホテルは、村の生活とはかけ離れた形でつくられ、村との関係はあまりありません。通常のホテルは垂直的に上に伸びていくイメージですが、アルベルゴ・ディフーゾは水平的、つまり横の広がりを持ち、そこに経済を形作ることになるのです。
現在アルベルゴ・ディフーゾはイタリアで100地域が認定されています。オフィシャル以外の地域も少なくとも100地域ほどあります。そして世界では300地域。地中海を中心にクロアチアにもありますし、来年にはスイス、近いうちにドイツやアルバニアにも誕生する可能性があり、今後も世界中に増えていくでしょう。
そのなかでも一番の共感を持っていただいているのが、日本です。同じ経営者ではありますが、現在は「矢掛屋」と「あかつきの蔵」の2つのアルベルゴ・ディフーゾがあり、そのほかにも3~4つのプロジェクトが進んでいます。この数年で10ほどのアルベルゴ・ディフーゾができるのではないかと考えています。
オスピタリタ・ディフーゾ
ここで新たな概念について紹介します。分散型のホテルという意味を持つアルベルゴ・ディフーゾに対して、分散型の宿泊を意味するオスピタリタ・ディフーゾです。これはアルベルゴ・ディフーゾの派生型となり、よりシンプルですが、同じ哲学を持ちます。つまり持続可能なツーリズムの一部であり、家々をネットワークで結ぶという点です。持続的であり、地域に根差し、本物を提供するという点では、農泊とその発想は似ているように思います。
一方で、アルベルゴ・ディフーゾのように定義や要件が厳密でなく、例えば、家々が1つの地域に必ずしもある必要はありません。少し離れた場所に家があり、小さな村の中だけでなく、より大きな範囲にも当てはまります。
レセプション機能を持つのは実際の建物でもいいですし、バーチャルでも問題ありません。その土地にしかない体験も付け加えることができます。食事や体験なども提供しますが、土地によってサービスを変えてもいいでしょう。サイトを通してレストラン、カフェ、その土地の美術館を紹介するのもいいかもしれません。住む部屋は、基本的に清掃されていますが、ホテルのように毎日清掃されるわけではありません。
強調したいのは、オスピタリタ・ディフーゾは、アルベルゴ・ディフーゾのようにホテルの機能を完全に持たせる必要はなく、哲学を継承しつつ、緩やかなつながりを持つことなのです。アルベルゴ・ディフーゾを導入しようとする際、敷居が高いと感じた場合、まずはオスピタリタ・ディフーゾをモデルに始めてみるのもいいかもしれません。
アルベルゴ・ディフーゾは、地元の人との出会いがなければ始まりません。その土地にあるものを生かすので、地元の人のコンセンサスがなければプロジェクトは進みません。空き家を持っている人、それを経営したい人の両者がいて、成り立つのです。投資する人が利益を得ることは大切なことですが、地域全体に利益が行き渡ることがより大切なこととなります。
地元の方のコンセンサスを形作るのは難しい側面もありますが、自治体の役目は大切だと思われます。協議会や町おこしの団体が、自治体にアルベルゴ・ディフーゾの存在を教えたり知識を与えたり、協力を得て進めていくことも重要です。
どのような利益が生み出されるのか。それは単純に部屋を貸し出して得た利益だけでなく、地域全体にいかに還元されていくのかも重要です。
まずアルベルゴ・ディフーゾは経営者が空き家を借りたり、買うことから始まります。そこに観光客が訪れるようになると、アルベルゴ・ディフーゾとして使われていない土地や家も不動産価値が上がっていきます。本物の商品や食は旅行者によって楽しまれ、旅行者が増え、プロダクトの付加価値が高まる好循環が生まれます。
プロジェクトの最終目標はその村に人を呼び戻すことです。大都市に流出した若者を呼び戻し、村に定着させることです。アルベルゴ・ディフーゾは、若者を引き付ける新しいモデルケースとして村に住むことを提案することができます。
アルベルゴ・ディフーゾの成功事例としては、水平的な広がりにより、商業施設や宿泊施設、レストランであったり、職人の工房などが増えていきます。小さい村でほとんど人が住んでいないような打ち捨てられた村々も多くありました。たいていは2~3の家から開始され、経済的な発展を遂げているのです。
具体的にアルベルゴ・ディフーゾを進める場合、国内で認定された地域、現在進んでいるプロジェクトを参考にしてみるのもいいかもしれません。財政に関しては、イタリアに関しては銀行などの補助を受けずに個人で起業している人も多くいます。その土地に経済をもたらすという考えに基づき、個人的な投資や州の補助を受ける場合もあります。
例えば、大きな範囲においてアルベルゴ・ディフーゾを導入しようとする際、実験的に始めていくのをお勧めします。一部の地域を選び、1年くらい実験的にやって、満足できる結果が見えてくるのではないでしょうか。
少なすぎる家も問題ですが、1つの小さな村を実験的にやっていくのはいいかと思います。とにかくビジネスプランをつくり、シミュレーションしてみましょう。旅行者数の見込み、それにはどれくらいの家が必要なのか算出し、金銭的なメリットを考えるのです。そこに住む人々を巻き込んでいく必要があると思います。
人が最も重要な要素に
垂直型のホテルのスタイルは、国際的に旅行が進んだ1920年代にできたものです。その原型ができて100年も経っているのです。私はアルベルゴ・ディフーゾとして新たな形を提案していきたいと思っています。
垂直型で一番大切なのは建物となります。つまり部屋が小さすぎる、サービスが悪いとクレームにつながります。一方で、アルベルゴ・ディフーゾは人間の質が大切になるのです。ドイツの著名ジャーナリストが2年前に発表した記事ですが、16の村がアルベルゴ・ディフーゾの取り組みで救われたと紹介しています。
ヒマラヤやアフリカ、メキシコの村が含まれていましたが、そのなかで実際にわれわれが正式に認定しているのは1つです。認定を受けずともこうした考えとプロジェクトが進み、村を救ったことに非常に満足しています。こうした広がりが日本にも浸透し、良い結果をもたらすことに期待しています。
Giancarlo Dall’Ara●イタリアでホテル支配人や地域活性化コンサルタント、国立ベルージャ大学教授などを務めた。1980年代にアルベルゴ・ディフーゾのビジネスモデルを提唱し、06年初めには同協会を設立した。
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