トーマスクック破綻と観光大国スペインの苦難

2019.11.18 00:00

 巨大旅行会社の突然の倒産は英国人の旅行先にも大きな衝撃を与えている。スペインのビーチリゾートに滞在するパッケージ旅行はトーマスクックの主力商品だった。同社の倒産は冬の太陽を求めスペイン旅行を計画した英国人に痛手だが、それ以上に受け入れ地域の観光産業、そして観光収入で生活を支える人々に大きな苦痛を与えている。

 観光産業はスペイン経済の10%を占めるが、そのウエートは大西洋のカナリア諸島と地中海のバレアレス諸島でさらに大きい。トーマスクックは18年に700万人以上をスペインに送客、倒産時には60万人のトーマスクックの顧客が海外各国に滞在していた。スペイン政府によると、この冬のトーマスクックの予約客はバレアレス諸島に約30万人、カナリア諸島に約40万人あった。

 スペインホテル・旅行施設連盟代表は、秋冬シーズンに予定した1300万人がスペイン旅行を取りやめるとし、500ホテルが閉鎖されると懸念する。結果、数億ユーロの観光収入が失われ、スペイン政府は緊急対策として13法案と3億ユーロの支援パッケージを発表した。それには観光企業に対する2億ユーロの融資、カナリア諸島とバレアレス諸島に運航する航空会社の空港着陸料値下げ、スペイン観光PRキャンペーン強化が含まれる。

 当地で最初に閉店したフェルテ・ベンチュラ・プリンセスホテルは、トーマスクックが688室の95%を23年まで独占する契約を結んでいた。スタッフ160人は解雇されたが、同地域で少なくとも3400人が職を失うと推定されている。

 英フィナンシャルタイムズ紙によると、マヨルカにあるスペインでトーマスクック最大のインバウンド子会社でスタッフ700人以上が解雇された。彼らは夏から給与が支払われてなく、法的にも不安定な立場だ。パルマ・デ・マヨルカのインバウンド旅行会社はトーマスクック事業停止の数日後に倒産し、負債は5700万ユーロと伝えられる。

 従業員は法的手続き進行中のため、勤務先が倒産し顧客が1人もいなくても、毎日出社して週40時間働かなければならない。自発的な辞職と解釈されると退職金資格を失う懸念があるからだ。また、非正規従業員は未払い賃金や解雇パッケージ請求に長く困難な訴訟手続きに直面する。

 スペインのホテルは倒産したトーマスクックに請求した代金支払いに不安を抱える。顧客はツアー代金を前払いしているが、一部のホテルでは顧客の退去に代金を請求するケースも発生した。在スペインの英国大使は、すべての関係ホテルにATOL制度で支払いを保証するステートメントを発表した。また英国旅行者の帰国を義務付けられた英国民間航空局(CAA)は、ATOLに基づく保証状をトーマスクック契約の全宿泊施設に送った。

 スペインの旅行業界では特に英国とドイツの大手ツアーオペレーターによる大量のパッケージ客に依存する観光のあり方に反省の動きが出てきた。この6年、スペインのインバウンドは記録的な成果を上げ、18年は8280万人に達したが、今夏から伸びが鈍化している。今後は中国などロングホールの誘客を強化し、ビーチ以外のアクティブな旅行を促進したいとの意見が出ている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。