観光競争力が映す課題 世界4位維持の一方で

2019.11.04 00:00

スペイン、フランス、ドイツのトップ3常連国の牙城を崩すためには
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国際的な経済研究機関でダボス会議の主催で知られる世界経済フォーラム(WEF)が隔年で実施する旅行・観光競争力調査の2019年版が公表され、日本は前回と同じ4位となった。上位10カ国のうちアジアは日本のみで、欧州の観光先進国と比肩する地位を確立している。一方で新たな課題も見えてきた。

 隔年で実施される調査で日本は14位(13年)→9位(15年)→4位(17年)と順位を上げてきたが、さらに上げることはできなかった。今回は評価指標の大きな変更がなかったこともあり、17年と19年のトップ10の顔ぶれを比較すると、前回5位の英国と同6位の米国が入れ替わった以外は変わっておらず、変化の少ない結果となった。特に、1位スペイン、2位フランス、3位ドイツの構図は15年から3回連続で不変であり、日本が順位を上げるためには牙城を崩すことが必要となる。

 ただ、7点満点の総合スコアで見た場合、首位スペインとの差は17年の0.16から19年は0.07に縮まっており、首位への距離はぐっと近づいた。さらに日本が旅行・観光競争力を高めるためのヒントを得るため、19年のレポートを分析する。

 評価対象は4分野に分かれ、14の項目とそれを構成する95の指標がある。日本が17年から19年にかけて大きく評価を高めた項目を見ると、10以上順位を上げたのは「安全・安心」(26位→13位)と「観光サービスインフラ」(29位→19位)の2つだった。「安全・安心」に関しては、13位まで上昇したとはいうものの、日本人の実感としてはまだ低いくらいだろう。指標を見ると、「テロ対策の企業のコスト負担」(62位、スコア5.3)、「犯罪・暴力対策の企業のコスト負担」(16位、スコア5.6)などは順位・スコアとも前回比で上昇しているものの改善の余地はまだある。これらは必ずしも治安の良し悪しそのものを評価した指標ではないため、旅行者や住民の治安に対する評価とは乖離しうるが、日本は「安全・安心」を買うためにコストがかかる国だと思われているということになる。「観光サービスインフラ」は、順位だけでなくスコアも5.3から5.7に上がったが、指標で見ると「大手レンタカー会社の存在」でスコアが4から6に、順位も85位から43位にジャンプアップしたことが大きい。

観光従事者の尽力見られず

 次に、もともと評価が比較的高く、さらに評価を上げた項目を検証する。「ビジネス環境」(20位→15位)、「国際的開放性」(10位→6位)、「地上・交通インフラ」(10位→5位)が該当する。「ビジネス環境」は、「海外直接投資規則による事業への影響」(36位→21位)、「投資動機に対する税金の影響度」(51位→30位)の躍進が大きい。直接的な観光促進のための政策とはいえないが、海外直接投資の誘致強化や法人税減税など政府の重点政策が寄与したと見るべきだ。「施工許認可に要する時間(日数の少なさ)」(96位)、「起業に要する時間(日数の少なさ)」(71位)などは17年から相変わらず低迷しているが、多くの指標で評価を高めたことで「ビジネス環境」の順位とスコアが上昇した。

 「国際的開放性」では、「地域貿易協定の数」のスコアが29から33に上がったことが大きい。11カ国との間で順次発行している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に拠っている。これ以外には、「ビザ要件」が112位から120位に順位を下げるなど、国際的開放性が高まったと評価される事象は見当たらない。「地上・交通インフラ」では、「道路密度」(35位→6位)、「舗装された道路密度」(34位→6位)で大きく順位を上げた。これらは単位面積当たりの道路延長を評価するものだが、情報の引用元を変更したことの影響が大きいと考えられる。これらの項目を検証すると、17年から19年の2年間に旅行・観光に対して本質的に大きな向上があったとは考えにくい結果ではないだろうか。

 この3項目を見て感じるのは、一部の政策・行政が観光競争力の強化に間接的に結びついた以外に目立った変化はないということだ。日本の観光競争力はすでにかなり高い位置にあるので大幅な向上は見込みにくいとはいうものの、観光従事者の尽力で何かが向上したという実感は乏しい。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年11月4日号で】

平林潤●クニエ ディレクター。外資系コンサルティング会社を経て現職にてSDGsの達成に貢献するビジネスのコンサルティングを担当。観光分野では、官庁・自治体の観光振興のための支援、海外における持続可能な観光開発のための戦略策定・調査分析などを実施。

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