オーバーツーリズム対策、DMOが担うべき役割とは
2019.09.02 08:00

(C)iStock.com/FichLegg
世界的に顕在化しつつあるオーバーツーリズム問題。訪日旅行需要が急拡大してきた日本も例外ではない。観光庁はこの問題でDMOが一定の役割を担うことを求めているが、果たしてDMOにできること、すべきこととは何か。
訪日客の急増を受けて、人気観光地ではオーバーツーリズムが深刻化し、対策の必要性が叫ばれるようになってきた。さらなる訪日市場の拡大を目指すならば、オーバーツーリズムの克服は避けては通れない課題でもある。
観光庁は昨年6月に持続可能な観光推進本部を新設し、オーバーツーリズムの解消を中心とする持続可能な観光の実現に取り組む体制を整備した。同本部では、オーバーツーリズムの実態を調査するとともに、今後の方向性を検討すべく、地方自治体へのアンケート調査や地方自治体・有識者へのヒアリングなどを実施。6月に報告書を公表し、観光庁として現状認識や取り組みの方向性を初めて示した。
報告書では、オーバーツーリズム対策を主導すべき担い手に言及。「長期的な視野に立った観光地マネジメントの一環として、地域社会における経済利益、コミュニティー・旅行者・文化資源・環境に対する利益の最大化、悪影響の最少化など、さまざまな側面に目配りをしながら対策に取り組むことが望ましい」との考えを示したうえで、担い手として「地域の実情を最も把握している地方自治体やDMO等が第一候補となる」としている。
DMO主導例はほとんどなく
報告書では自治体が進める対策の傾向が明らかになった。主要観光地を抱える138自治体から回答を得たアンケート結果を見ると、いずれも旅行者増加による課題の発生を認識していた。ルール・マナー違反に関して特に問題視されており、なかでもトイレの不適切な利用(25.4%)、ごみ投棄(20.3%)、立ち入り禁止区域への進入(15.9%)が多かった。また、マイカーや観光バスによる交通渋滞(38.4%)、日帰り客増加等による観光収益の漏出(31.2%)、宿泊施設の不足(30.4%)、安全確保・トラブル対応(23.9%)が深刻化している実態が浮き彫りになった。
こうした問題に対しほとんどの自治体が何らかの対策を講じていて、広域的な観光客分散の取り組み(44.2%)、レンタサイクル(42.8%)、オフ期におけるイベント・誘客(42.8%)といった交通渋滞対策をはじめ、観光関連機関や民間事業者等との連携(61.6%)、観光指標による観光マネジメント方策(40.6%)などが多数派だった。
ただし、オーバーツーリズム対策に本格的に乗り出しているのは全体から見れば少数派で、ことDMOに関しては「主体となって行っている例はほとんどないのが実情」(観光庁外客受入担当参事官室)という。報告書とあわせて公開された事例集では、国内DMOで例に挙がっているのは田辺市熊野ツーリズムビューロー(地域DMO)のみで、ほとんどが自治体によるものだ。
その一方で、ここ最近の国の方針からはDMOにオーバーツーリズム対策に主導的な立場を担う期待感が示されている。「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」が3月に出した中間とりまとめでは、DMOの関与が初めて示された。
オーバーツーリズム対策を含めた環境整備を行い、そのために農林水産業・商工業・文化・環境などのあらゆる分野と連携し、総合政策として取り組みを進めるべきというDMOの目的が強調された。今後は、持続可能な観光地域づくり、閑散期対策など需要の平準化といった観光地域全体のマネジメントに留意すべきと指摘されている。
ただし、自治体や関係機関との役割分担やDMOがやるべき対策などは明言されておらず、同参事官室は「DMOにやれというわけでなく地域の実情に合わせて役割分担や取り組みを柔軟に変えてほしい」と含みを持たせるにとどまっている。
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