電通アイソバーの秋山氏が語る「SNSから捉える 30代女子の旅行動向」

2019.07.08 18:40

ユナイテッド航空は旅行業界向けにユナイテッドEXPOを開き、デジタルを活用したマーケティング施策を手がける電通アイソバーの秋山奈央プランニングディレクターがSNSなどデジタルの利用実態から見える30代女子の旅行動向や訴求策を語った。

 メディア別の利用実態を見ると、30代女性はテレビや新聞などのマスメディアよりも、携帯電話・スマートフォンやパソコンなどのインターネット利用時間が長くなるちょうど境の世代になります。

 世代が下がるほどインターネットにより親しみがありますが、日本におけるスマホ利用者は年々伸びており、18年に7000万人を超えました。パソコン利用者は年々減少しており、アクティブなネット利用者割合(18年LINE調査・15〜59歳)は、スマホのみが57%、パソコンと両方が32%という状況です。

 プロモーションなどを行う際には、スマホ・モバイルファーストである現状を前提に入れて取り組む必要があります。

可処分時間のシェア争い

 スマホの利用実態(ニールセンモバイルネットビュー調査・18歳以上対象)を見ると、ユーザーの1日の平均利用時間は約3時間で、ウェブブラウザとアプリの割合を比較すると、アプリ利用は84%と利用時間の大半を占める結果となっています。

 スマホに入っているアプリは30個前後といわれていますが、毎日使うアプリはわずか8個です。毎日のように新しいアプリが登場していますが、使用個数はここ数年変わっておらず、限られた時間で使用アプリは固定化しているといえます。

 このような背景を考えると、限られた可処分時間のシェア争いが激化するなか、ユーザーとコミュニケーションを取っていく上で、利用者数といったリーチ数などの量のみに目を向けるのではなく、サービス利用の深さ・エンゲージメントといった質も重要といえるでしょう。

20代と異なる旅行動向

 ターゲット世代(30代女性)の具体的な例を紹介します。ある33歳独身の会社員は、海外に最低年2回・国内にも年2回ほどの頻度で、社会人になってからずっと同じペースで旅行しています。海外旅行経験が多く、海外に友人もおり、情報リテラシーが高いタイプです。

 旅行のきっかけとして第一声で挙がったのが、疲れたとき。これは他の30代女性にも見られたのですが、20代はやりたいアクティビティーを求めていたけれど、30代になると仕事でも責任が増し、ストレスを感じていることを自覚しており、異なる環境でゆっくりしたいというニーズがあります。

 旅行へのスタンスとして、「交際費で月5万円などすぐ使ってしまう、5万円を我慢すればすぐに旅行に行ける」というコメントもありました。ソフト・ハードともにインフラが整ってきた今、旅行へのハードルが低くなっているといえます。

 旅行先を決めるのに参考にしているのはインスタグラムで、リサーチ手段としては、その国に行ったことがある、もしくは住んでいる友人から、リアルな情報を集めます。ガイドブックは立ち読みで、知りたい情報の取得というよりも、友人との話のネタとして仕入れるために活用しており、必要な情報は検索エンジンでそのまま調べるそうです。例えば、「タイ マーケット クレジットカード」などと検索窓に打ち込んで調べることでほしい情報を手に入れるのです。

 目的地が決まると、旅行会社の費用カレンダーを見ながら、複数の旅行サイトで検索し、比較します。旅行会社のカウンターは普段はあまり利用しないけれど、親と行くときは、親に安心感をもってもらうために活用するそうです。

 目的地に着いてからは、きっちりスケジュールは立てたくない、という特徴もありました。20代は朝から晩までアクティビティーを詰め込んでいたが、30代になると、スケジュールの余白を残しておきたいと考えます。

 その日に撮った写真を見せ合ったり、翌日の予定を相談する場として活用するカフェも重要視していました。旅行写真のシェア方法については、インスタ映え用の写真は面倒と考えており、24時間限定公開の動画機能「ストーリー」を多用
しています。

既婚女性の場合は

 もう1人事例として紹介するのは、既婚37歳で2歳の子供がいるケース。子供中心なので、なかなか海外に行けず、旅行に行く際は計画的に進めたいというタイプです。旅に行く条件は夫との休みが合うこと、候補地は近くて行ったことのないところで、フライトの出発時間や現地到着時間、治安面など子連れならではのチェックポイントがあります。

 航空券はメタサーチで検索し、ホテルはレビューを重要視し、日本人・外国人双方の投稿もチェックしているとのこと。現地では、行きたいところをあらかじめグーグルマップでピンをしておき、効率的に行動していました。旅行後は、子供がいるママに共通する特徴ですが、子供の成長記録を残すための専用のインスタアカウントに旅行中の子供の様子をシェアします。

莫大な情報量のなかで

 ターゲット世代の特徴として挙げられるのは、まず情報取得についてです。前提として、ターゲット世代の彼女たちは毎日、莫大な情報に触れています。一例として、インスタで1日に投稿される写真は世界で8000万枚・ストーリーは4億個、フォローしているアカウント数平均は約100個というデータもあります。

 これだけの情報量のなか、彼女たちの目に留まるのは非常に難しい状況です。「最近、SNSの投稿の写真を見て、実際に行ったり、行きたいと思った場所はありますか」と聞いてみると、「すぐには思い出せない」「すぐに行動したくなるピンポイントの情報に出会うのはまれ」との回答が多くありました。

 しかし、インタビューをした女性に自分のインタグラムを調べてもらうと、旅行関連のアカウントを10個以上フォローしていたり、別の女性は、画像共有サイトのピンタレストでピンした写真をまとめてみると、モロッコの写真が多く、今年の旅行はモロッコに決めたそうです。

 このような行動から、情報過多な中にあっても、彼女たちは意識的であれ無意識であれ、自分が気になった好きな情報は日常的に脳内にストックしていることが分かります。そのストックが一定数を超えたり、きっかけができた時に顕在化し、旅行という行動に移るのです

高い情報検索力

 2つ目は情報検索力が挙げられます。旅マエ・ナカの情報収集にSNSを頻繁に使用しており、旅マエはインスタのハッシュタグから検索して気に入った場所をコレクションに保存したり、紹介していたインフルエンサーもフォローしてさらに情報をたどります。

 ある女性は、タイに住んでいる友人にマーケットを紹介してもらった際、実際に行く前にインスタで検索、目的地の様子を検証していました。ガイドブックや広告写真で定番観光スポットは押さえるけど、自分の好きな情報や共感する人、好みの場所をSNSで探し、SNSでしっかり検証してから行動するのが特徴です。

ずっとオンライン

 最後の特徴として、旅行中もずっとオンラインで、インプットとアウトプットを普段と同じように行っていることが挙げられます。旅行中はスマートフォンで地図や配車、飲食店の口コミアプリ、ハッシュタグ検索を活用し、同時に自分のSNSではアウトプットつまり旅行体験の発信を行っています。

 ちなみに、20代はインスタ映えのために行動していたけれど、「映え写真は面倒、最近はインスタグラムのストーリーの方が気楽」という声もありました。インスタ映えの次の言葉として、まったり、くつろぐという意味がある「チル」というワードが、昨年夏ごろから広がってきており、今年どこまで広がるのか注目したいところです。

 情報過多の状況でいかに彼女たちの興味を引き付けられるのか。事例として、働いている20〜30代女性をターゲットに、豪ゴールドコーストの認度を上げることを目的として行ったプロジェクトを紹介します。

観光地の魅力とインサイトを掛け合わせると

 彼女たちのインサイトを調査すると、働き盛り、忙しい、時間がないという特徴と、安らぎたい、休みたいという欲求はあるけれど、旅になるモードからは離れているということが分かりました。

 一方、ゴールドコーストの魅力は海リゾート、サーフィン、ウェディングがありますが、ハワイやグアムなどの有名リゾートと差別化できる点として、オーガニックが豊富、自然の癒やしが資産という点に着目しました。

 これらを掛け合わせて行ったのが、「Kaori Tabi」というプロモーションです。現地で採取した「香りデータ」の特徴を人工知能(AI)が分析し、あらかじめ学習させておいたハーブ175種類のデータと照らし合わせることで、ハーブティーを作り、それをフックにプロモーションを行いました。AIを使ったハーブティーとしてメディアでも話題となりました。

 ターゲットのインサイトと、プロモーションするものの特徴のフックをいかに結びつけ、どのような体験をさせるのか、がポイントとなります。今後の旅行とデジタルの関係を考えると、旅行前から旅行中・後も、スマホ1つで完結できるようになりつつあり、各タッチポイントでユーザーデータの取得が可能になってきました。

 さきほど紹介したように、いろいろなステータスや趣向を持った多様化している30代女性たちを、データを活用し見える化することで、個々へのアプローチが可能になります。

 日々大量かつ多様な情報と接触している30代女性ですが、自分にあった情報や自分らしい情報はしっかりストックしています。デジタル活用でユーザーの特徴に応じた形で最適なコミュニケーションをとることでエンゲージメントを高め、長期的な関係を構築していくことが今後重要になってくるでしょう。

あきやま・なお●大手航空会社で顧客マーケティング調査を担当。フェイスブックの立ち上げから運営戦略を担当し、11年度・12年度に企業ウェブグランプリのソーシャル部門でグランプリを受賞。13年から現職。企業向けにソーシャルメディア導入から現状分析などの支援に取り組む。

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