脱ダイナミックパッケージ 新たな選択肢を探る時

2024.06.10 00:00

(C)iStock.com/Inok

旅行商品の購入はオンラインが当たり前になり、ダイナミックパッケージが従来のパッケージツアーのシェアを侵食し続けている。しかし、その限界も見えてきた。新たな選択肢の提供を急がねばならない。

 ANA Xは4月22日、「TaaSプラットフォーム」構想を発表した。航空便予約に加え、ホテルやレンタカー、アクティビティーまで、さまざまな旅行素材の検索から予約、管理までをスマートフォン1つでシームレスに完結できるプラットフォームをつくろうというのが構想の内容だ。背景にあるのは、オンラインで航空と宿泊を組み合わせて販売するダイナミックパッケージが頭打ちになっている状況がある。

 ANA Xは個人型包括旅行運賃(IIT)をベースとした価格固定型のパッケージツアーを店頭パンフレットとANAウェブサイトで販売してきたが、コロナ禍で店頭来店客がなくなった22年度に店頭販売を廃止した。それ以降、国内パッケージツアーは価格変動型運賃を基本とする新IITを使うダイナミックパッケージが販売の主力となってきた。しかしその一方で、パッケージツアーではなく消費者個人が航空券などを個別に購入する個人化も進みつつある。TaaSプラットフォーム構想は、個人化が進む旅行市場で今後どう存在感を高めていくか、同社としての解答の1つだ。

新IIT登場で価格競争力にかげり

 ダイナミックパッケージはもともとインターネットやEコマース先進国の米国で開発されたもので、商品価格がダイナミック(動的)に変化するのが最大の特徴だ。加えて基本的にオンラインで販売され、旅行者が航空券とホテルを自分で組み合わせられる自由度の高さが評判を呼んだ。

 旅行会社にとっても、それまでの主流だった紙のパンフレットでのパッケージツアー販売に比べ、手間とコストを圧縮できるメリットがあった。日本では05年に住友商事系の旅行ベンチャー、グローバルトラベルオンラインが海外旅行のダイナミックパッケージを発売。他社もこれに続き、国内旅行でも06年から販売が始まった。特に旅行会社にとって大きな負担となっていたパンフレットの制作と配布にかかる負担が削減され、造成体制の大幅なスリム化につながった。ただし、商品価格はダイナミックでも、ベースとなる運賃はパンフレット商品に適用されていたのと同じIIT。すなわち価格固定型運賃をベースにしてきたという意味では、紙のパンフレット商品と変わらない。

 価格固定型運賃に基づくパッケージツアーの強みには価格競争力の高さが挙げられる。この場合の航空運賃は、旅行会社が半期ないしは四半期に1度、一定量の航空券を仕入れる契約を航空会社と交わした個人向け包括運賃だ。仕入れた航空券と旅行会社が持つ宿泊施設の在庫を組み合わせ、最終的にどれくらいの収益をマークアップして販売するのかは旅行会社の裁量に任される。だからこそ、旅行会社でなくては出せない魅力的な商品価格を提示できた。価格競争力の源泉は、仕入れから始まる商品造成のプロセスを旅行会社がコントロールする余地が存在していたからに他ならない。

 さらにオンライン販売を基本とするダイナミックパッケージは旧来の店頭販売パッケージツアーより造成コストが安いため、より割安な価格設定を実現できた。市場の反応も良く、「ダイナミックパッケージは割安」とのイメージが浸透していった。旅行会社が価格を下げて販売をてこ入れしたい際には、オンラインで瞬時に対応できる機動力も強みとなった。

 ところが旅行会社にとって価格競争力の維持にピンチが訪れる。全日空と日本航空が20年4月から国内線のIITに適用した価格変動型運賃がそのきっかけだ。ダイナミックプライスとも呼ばれ、空席状況に連動して日々刻々と変化する。つまり航空会社のイールドコントロールが反映され、運賃が文字どおり時価になったわけだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年6月10日号で】

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