シニアの活力 企業と地域を助く

2024.05.13 00:00

(C)iStock.com/RichVintage

人手不足が深刻化するなか、シニア人材を確保しようと、定年後も働き続ける社員などの待遇を改善するケースが旅行業界で相次いでいる。労働市場で比重が高まる60歳以上が意欲を持って働ける環境をつくれるかどうか。企業の競争力を左右する課題となりつつある。

 日本の少子高齢化と生産年齢人口の減少は、危機的状況だ。2030年には人口の3割が65歳以上となることから「2030年問題」とも称される。さまざまな社会問題を引き起こすと考えられるが、なかでも労働力不足は企業にとっては死活問題だ。

 何しろ10年には1億2800万人もいた人口が、30年には1億1700万人へ1000万人以上も減ってしまうのだ。大阪府や神奈川県がそっくりなくなってしまうより大きな人口減少だ。しかも生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が40年には6000万人を切ると厚生労働省は試算している。人口全体が減少するなかで65歳以上の割合は膨らみ、生産年齢人口は縮む。労働力不足に陥るのは明らかだ。

 すでに人手不足に悩む企業が続出しているが、将来的にはほぼすべての企業が悩まされるようになることは避けられそうにない。企業としてはシニア層の活用推進は待ったなしの状況にある。

 シニアの雇用に関しては、21年4月の高齢者雇用安定法改正により、企業に65歳までの雇用確保が義務付けられた。ただ、処遇次第では人件費の上昇につながってしまうという課題があり、シニア活用の壁となってきた。シニア社員の健康の確保や職場環境整備といった問題も付随する。それでもシニア活用を強化する企業の動きは勢いを増すことはあっても減退することはなさそうだ。

 特に異業種でその傾向が顕著で、ファスナーメーカーのYKKグループは21年4月に国内事業会社の定年を廃止した。社員は会社が求める役割が果たせる限りは年齢に関係なく働くことができ、社員は退職時期を自分で決められるようになった。家電販売大手のノジマは、20年に定年後の再雇用契約の上限を80歳まで引き上げたが、その後、「80歳を超えても働き続けたい」という要望を受ける形で21年10月に上限を廃止。80歳以上の雇用にも道を開いた。

 空調設備メーカーのダイキンは21年4月から再雇用の上限を65歳から70歳に延長すると同時に報酬設計を見直し、ベテラン層の活躍の背中を押すよう賞与の評価体系をきめ細かく組み直してもいる。60歳以上の定年以降も約9割が再雇用者として働き続ける同社では、海外拠点での新商品開発や販売網の拡大、新工場の立ち上げに大きく貢献しているという。

 21年の改正法では、65歳から70歳までの就業機会の確保も努力義務とされた。そうした背景もあるにしろ、企業が働く環境の整備に積極的なのは、やはり雇用問題への備えという側面は否めない。

旅行業大手が相次ぎ着手

 旅行業界でもシニア活用が目立ち始めた。JTBは今年4月、若年層の人事賃金制度改定と合わせてシニア社員の活躍促進に向けた取り組みを開始した。新たに賞与を年2回支給することとし、シニア社員の年収を約24%引き上げる。同時に成果に応じた賃金制度への改定も行うこととした。

 JTBでは、60歳以上社員の構成比が23年度の4%から28年度には13%まで高まることを見据え、今回の取り組みに踏み切った。目的はシニア社員のモチベーション維持と高度な専門性を持つ社員の流出防止だ。定年前と同等の職務・役割・責任を引き続き担ったり、培ってきた高い専門性を生かしながら働ける機会も増やす考えで、シニア社員の活性化を促す。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年5月6・13日号で】

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