地方から考えるライドシェア
2023.12.04 08:00

筆者が以前から本欄でも提言していたライドシェア解禁がいよいよ議論になっている。読者の中には反対の立場の業界の方もいらっしゃるだろうから、地方の宿泊事業者としての私の意見を再度述べておく。
私が解禁を望んでいるのは特に地方においてタクシー不足が深刻化しているからだ。夕方17時に唯一のタクシー事業者が看板を下ろす地域や、来訪者からの予約を受け付けてもらえない地域は珍しくなくなった。観光客はおろか、早朝・深夜に急患の付き添いや出産などで緊急の移動が必要な人たちにとってタクシーという選択肢が消滅した。もちろん、どの業界にも降りかかる人手不足が直接の原因だが、私はタクシー業界に「観光業に期待しない構図」が出来上がったことが大きな課題だと考える。
コロナ禍後、タクシー事業者は高齢者向け補助金などの拡充もあり住民サービスに軸足を移した。日中の病院や買い物のための予約を受け、そこに稼働を集中させたことで、不定期で安定した売り上げの見込めない観光需要、来訪者需要用のタクシーを同時に成り立たせることができなくなってしまった。結果、宿泊施設も深夜盛り場に繰り出そうとする宿泊客や、早朝宿をたつビジネス客を断らなければならないのが現実だ。深夜、繁華街から宿に帰れなくなった客をやむを得ずホテル従業員が迎えに行くケースもあるが、その場合ももちろん料金は取れない。
タクシー事業者から見て2種免許を持つメリットが薄れることや、現行ルールでは個人タクシーが地方では開業が難しいなど法律上の整合性の問題は確かにある。安全性を懸念する意見も多い。ライセンスや保険制度などの構築は必須だが、むしろ相乗りによる犯罪や事故は白タクを野放しにしているせいで、実態把握すらできていない。
われわれ宿泊業界は先行して住宅宿泊事業、いわゆる民泊が解禁されている。いまだに不安や反対の声も残るルールだが、ホテル不足の緩和にはつながったし、ライセンス供与により違法民泊をあぶり出すという意味においては大きな効果があった。ライセンスシールやGPSによる捕捉などによりトラブルを防ぐ方法は民泊よりもバリエーションは多いはずだ。
他の規制緩和による業界へのテコ入れも確かに必要だろう。しかし、そもそも地方では人手不足以前に顧客も減り、事業者が多くの台数を抱えて事業の維持が難しかったからこそ減車・減員してきた経緯があるのだから、従事者を無理に増やす施策を行っても、結局後々では車や人が再び余ることになる。人1人を養うだけのボリュームはないが、需要の発生した時にだけ稼働する都合の良いサイドビジネスとしてライドシェアを活用させる意味はここにある。
ライドシェアとの共存のため、既存事業者が地域の予約を管理する権限を有するのもよいだろう。アプリで配車を頼んでも事業者の台数が確保できず断らざるを得ない時や、事業者が営業終了した時間にライドシェアが自動的に解禁される仕組みであれば構築は容易だ。タクシー事業者の売り上げは理論上1円も減らない。派生して人手不足で余っている営業車を個人事業者に貸し出すなど副次的な事業も成立し得る。仕事を終えた宿泊施設の従業員の副業や地域の若者の小遣い稼ぎにもなるので、地域の経済や人口流出の歯止めにも少しは寄与するはずだ。
都会ではまた違う論理で賛成派と反対派が意見を戦わせるのだろうが、少なくとも私は地方においては先行して解禁されるべきだと考える。それは利用者、地域住民や事業者、タクシー事業者の三方すべてを救うことにもつながる。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。
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