アドベンチャーツアーへの道
2023.11.27 08:00
最近、シニア層の旅行でアドベンチャー志向が増えてきている。アフリカのサファリで、野生動物との出会いを体験した多くの方が次の旅をリピートする。北極や南極への旅も年々問い合わせが増えている。大自然と生命の力を感じる旅の体験が感動を呼んでいるのだろう。
先日、片道30時間近くかけて南米チリに出張し、パタゴニアにあるアドベンチャーツーリズムの拠点の1つ、ホテル・エクスプローラを訪問した。この企業はチリに7つの施設を所有し、連続12年、ワールド・トラベル・アワードのリーディング・エクスペディション・カンパニーを受賞している。チリ政府が所有する国立公園の中にコンセッション(公共施設等の運営事業)でホテルを運営し、この絶景のロケーションとさまざまな体験プランが口コミで広く知られている。
今回私はパイネ国立公園内にある施設に滞在し、いくつかのアクティビティープランを体験した。世界中のアドベンチャートラベラーの間で話題となっている理由を実体験を通して知ることができた。各施設では最低3泊以上の宿泊が求められ、滞在中の体験プログラムはインクルーシブ(包括)料金になっている。氷河クルーズやトレッキング、乗馬などさまざまなプログラムを体験でき、どのコースにもプロフェッショナルガイドが同行するのが大きな魅力だ。
ホスピタリティーあふれるガイドたちは全員が訓練され、専門知識を身に付けている。この会社は別組織としてアドベチャーガイド養成学校を経営しており、厳しい訓練プログラムを履修した後、エクスプローラの施設が実践の場として提供される合理的な連携がなされている。
今回の南米への出張目的は、南極クルーズを運営するパートナー会社の創立20周年記念ミーティングへの参加。この会社は世界で初めて南極のドレーク海峡を飛行機で飛び越えるという「そんなことは不可能」といわれた事業を実現した企業である。荒れ狂うドレーク海峡を行く48時間のクルーズの代わりに、わずか3時間半のフライトで南極大陸に到達する画期的なアイデアだ。
当社は数年前から南極フライ&クルーズをツアーとして実施しているが、この企画の出現で世界中のシニア層に南極の旅が近づいた。南極クルーズはコロナ前に30隻だった極地船が現在50隻に急増している。この状況を踏まえ、世界のアドベンチャーツーリズムのリーダーを船上に集め、今後の観光のあり方として、いかに生態系への影響を抑えながら継続して極地への観光ができるかなど専門家を交えて意見交換がなされた。この会議を通して、アドベンチャーツアーの実現には専門家のアカデミックな知見と人材が必要であることを実感した。
今後、日本でもアドベンチャーツアーがますます盛んになると思われる。9月に北海道で開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミットが皮切りとなり訪日旅行者も増えてくるだろう。アドベンチャーツアーは体験が中心となるので、パンフレットだけでは実際のツアーに必要な体力条件や、自己責任の範囲などを説明することは難しい。販売にあたっては過去の参加者の感想や意見を集約したうえで、申し込みになるお客さまそれぞれの意向や条件を踏まえて提案する対面販売が理想だと思う。
特にシニア世代をアドベンチャーツアーに誘う第一歩は、オンラインではなく旅行会社によるリアルな説明が断然有効だろう。主催する旅行会社が実体験を集積して改善を重ね、カウンターでお客さまと対面するスタッフと情報を共有していく。アドベンチャーツアーの発展には旅行店舗がますます重要になると考えている。
柴崎聡●グローバルユースビューロー代表取締役社長。海外のネットワークから企画が実現した世界初の「ウィーン・フィルクルーズ」はクルーズ・オブ・ザ・イヤー受賞。シェフや音楽家が同行する旅などオリジナル企画を多数実施。カルチャー&ホスピタリティーを念頭に企画から添乗まで現場で陣頭指揮を執る。
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