輝く瞳
2023.03.27 08:00
最近急成長しているIT系の上場企業から、新たにコンサルティング業務を受託した。その関係で、同社に中途入社する100人ほどの方々と一緒に、オフラインとオンラインで新人研修を集中的に受ける機会があった。その多くは20~30代の若者たちだった。最初にオフラインでの顔合わせがあり、その後はチームに分かれての共同作業となった。その最初のあいさつでのことである。
どう見ても自分が一番年寄りに思えたので、口火を切ろうとした時、最近あまり感じたことのない、鋭いがどこか熱のこもった、そして実に柔らかい視線にはっとした。私を見つめる全員の目がとてもきらきらとしていたのだ。
他の人とのコミュニケーションにおいて、非言語の持つパワーは絶大である。もちろん言葉のインパクトは強烈で、一歩間違えば口は災いのもとともなるが、非言語コミュニケーションの影響力は半端ではない。
その若い人たちのきらきらと光る目を見ながら、自分も若い頃はきっとこういう瞳をしていたはずだと思った。いまでも死んだ目はしてないとは思うが、あの鋭気あふれる瞳にはとうていかなわないと感じた。
最近、若い人は元気がないと思うことが多かったので、この日のことは自分にいい意味で衝撃的であった。若者が自分の未来にあまり夢を持てないような状況では、会社生活でいきいきとしろとか人生に前向きになれなどと指導しても意味がない。
なぜ日本はこうなってしまっのかと常々考えている。原因はいろいろあるとは思う。政治のせいにしてもいいが、そんな単純な話でもない。歴史的・民族的な習慣や文化の影響もあるだろう。中でも一番大きい影響は、やはり戦後の教育制度ではないかと強く感じる。受験戦争という社会的仕組みの影響は実にネガティブインパクトが大きい。
欧米の教育を受けた人と日本の教育を受けた人との間には大きな違いが1つある。それは人と違うことを良いことだとする欧米文化と、同質化や共感がまず何よりも大事だとする日本の根本教育の差によるものである。まずは言われた通りにやれ、規則は絶対だから守れ、時間をきっちり守れ、いい学校に行けなどである。
これらの圧力が小さい頃から心にずっしりとのしかかり、自分は駄目な人間だと思い込んでしまう若者を大量生産する結果になってしまっているのがいまの日本だ。
一方で欧米の教育は、色の持つ意味であったり、自分を自分らしく表現したり相手に伝えるためにはどうしたらいいかという、個性を磨くための部分が教育のコアとなっている。これは家庭でも学校でもである。
フランスの友人の家族を日本に招待して、京都の上七軒の茶屋でもてなした時のことだ。そのご子息(当時まだ10歳前後)が茶席で舞妓さんの舞を鑑賞し終わった直後にすくっと立ち上がり、いまの舞へのお礼をしたいと言い出した。何をするのかと思いきや、なんとフランスの国歌をアカペラで歌い出したのだ。その態度は実に威風堂々としており、今回見た中途入社の若者たちとまったく同じ目をしていた。
春は命の息吹を感じられる素敵な季節である。桜も咲き、新しい出会いもあり、多くの学校や日本企業では新しい年度が始まる。あのように光輝くすてきな瞳を持つ人にあと何回出会えるだろうかとわくわくしつつ、自分も負けてはいられないと夕日に輝く研修センターを見上げながら帰路に就いた。
荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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