観光客数制限が問う責任 自然資源の保護と活用

2023.02.27 00:00

(C)iStock.com/gyro

自然資源を観光に利用するエコツーリズムは常に環境負荷の問題を抱える。それだけに推進には適切な管理が必要だ。日本国内でいま、観光客の立ち入り人数を制限する地域が増えつつある。どのようにして自然環境の保護と活用のバランスを保とうとしているのか。そこで問われる観光事業者の責任とは。

 沖縄県竹富町の西表島で観光客の立ち入り人数を制限する仕組みが始まる。西表島とその周辺海域を3つのゾーンに分けて観光利用の可否や利用の度合いを決め、一般利用者と観光事業者の双方が守るべきルールを敷く。現在整備中の事前予約システムで管理していく仕組みだ。

 これには環境省の認定を受けた西表島エコツーリズム推進全体構想が基盤にある。全体構想はエコツーリズム推進法に基づき認定されるもので、22年12月時点で全国22地域。西表島は最新の認定地域だ。市町村が特定自然観光資源として指定すれば立ち入りを制限できるのが特徴の1つで、この措置を使うのは北海道弟子屈町に次いで今回が2例目となる。

 そもそもエコツーリズム推進法は08年に施行され、これに基づき日本のエコツーリズムを進めるための総合的な枠組みが基本方針としてまとめられた。併せて、推進する地域を認証する制度がスタート。認証されるためには、市町村が中心となり、観光事業者、地域住民を含むさまざまな関係者が参加する協議会を組織し、エコツーリズム推進全体構想を作成する必要がある。

 全体構想が認定されれば、エコツーリズムを推進するモデル地域として国のお墨付きを得ることができる。地域のブランド力と集客力の向上が見込めるほか、自然観光資源の持続的利用のために保護措置を講じることが可能だ。新たに条例を制定しなくても立ち入り制限や罰則を適用したりできるのも、大きなメリットだ。

過剰利用を防ぐためのルール

 竹富町が制限に踏み切るのは、観光客数の増加に伴い自然環境や地域社会に深刻な影響が及んでいたからだ。

 西表島はイリオモテヤマネコをはじめとする絶滅危惧種を含む希少な自然が存在する地域として知られる。1996年に西表島エコツーリズム協会が設立され、エコツアーが次第に活発化した。観光客数も増加し、近年は人口2500人に満たない島に年間約30万人が訪れるようになった。観光のメインコンテンツであるエコツアー市場が拡大し、ガイド事業者数は2010年代に入ると急増。10年に陸域ガイドだけでも約50事業者だったところ、19年には100社を超える事業者がエコツアーを行っている。

 多数の観光客の来訪で定期船や水道といったインフラへの負荷は高まり、マナー違反の旅行者の増加やイリオモテヤマネコの交通事故の増加といった深刻な影響も生じ、ガイド事業者の急増に伴い過剰利用が懸念されるエリアも出てきた。ハイシーズンのマングローブの森はカヌーツアーで大混雑し、川をさかのぼった先にある人気の滝付近ではカヌーの渋滞まで発生。質の低いガイドが野放し状態だったことも問題を大きくした。こうした観光に伴う課題は、21年の世界遺産登録時の要請事項としても指摘されている。

 世界遺産登録を目指すなか、竹富町はガイド事業者の問題に取り組んできた。21年に竹富町観光案内人条例を施行。カヌーやカヤック、SUPのガイドやトレッキングガイドは町長の免許が必要となり、取得のために救命救急の資格取得や法令順守が義務付けられ、無免許ガイドは町が指導勧告し、従わない場合は事業者名を公表する。ガイドの質の向上やルール順守を担保する仕組みだ。

 現在、同条例の対象は陸域ガイドのみで、海域ガイドは条例に基づき設置された審議会で議論が続いている。竹富町自然観光課によれば、現段階では登録制を採用し、スノーケリングやダイビングに必要となる係留ブイの使用を登録事業者以外には認めない案が検討されている。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年2月27日号で】

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