トラベルの語源
2023.01.30 00:00
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英語で旅をtravel(トラベル)というが、この語源をフランス語のtravailler(トラバイユ=働く・勉強する)から来ているとする説がある。そう聞いて一瞬、とても意外な感じがするのは私だけだろうか。恐らく現代の旅は仕事や勉強とは反対の意味や定義で使うことが多い。だから意外な感じがするのだろう。
言葉の起源には、すべて意味があったはずだと私は常々考えている。つまり無意味に適当につくられた言葉は1つもないということだ。だとすると、旅の語源が働く・勉強することだったということは、トラバイユ=トラベルという言葉ができた当時は、旅とは「働いたり、勉強するためにどこかに行く」ということを意味していたと考えるのが妥当だろう。逆にいえば、昔は同じ場所でずっと同じことをしていたのではいい仕事にはありつけなかったと分析することもできる。
そう考えてみると、私の場合、あらゆる場所に日々移動しながらノマド的な仕事をしていることは、まさに本来の旅という言葉に実に忠実な行動パターンだといえそうだ。せっかくなので、年の初めにそのメリットとデメリットを総括してみることにした。
まずメリットとして、日本や世界のさまざまな新しい・独特のものを見聞できることがある。また何よりも新しく、知らない世界の人々との出会いがあり、また別れもある。こういう働き方をしていることで固定観念をもつ余裕がなくなる。というか、「なんでもあり」が世界標準なのだという感覚も自然に身に付いてくる。
一方でデメリットとしては、なんといっても身体への負担が大きいということだろう。時差が8時間以上にもなると、日本に合わせるため朝3時に起きてオンライン会議をすることなども、そう珍しいことでもない。そのせいで昼間に倒れそうになることもある。その時は素直に昼寝をして調整している。
私が7年前に日本を飛び出したのには、シンプルな理由があった。それは「世界市民」になるということであった。世界中の一般的な日常、仕事上でのさまざまな常識の違い、コミュニケーションにおけるプロセスや手法の違いは一体どこから生まれるのか。それをぐたぐたとわかったような理屈で説明するのでなく、自分の身体で把握したかった。
この単純な動機と自身の取った行動の結果、多くの自己犠牲や周囲にも迷惑をかけてしまった部分もあるように思う。だが、得られた実体験に基づく知見はとてもお金で買えないものとなり、まさに現代版トラバイユ=ノマドの実践となった。その知見をいま世の中にお返しする責務が私にはある。
現代における旅は、仕事から離れる、癒やし、自分へのご褒美など、元の意味とかけ離れてしまった。その理由として、変わったのは言葉ではなく、人間の行動や思考そのものが時代とともに変化あるいは進化したからと考えてみると、実に言葉というのは面白いものだとわかる。せっかくならば本来の語源に従い、もともとの旅の意味・意義に立ち戻って、自らの未来を再構築してみることも悪くないと考えている。
旅行業界で働く若い世代の人たちは、自分の未来や将来設計にさまざまな動機や希望をもっていると思う。中でも人との触れ合いや出会いから生まれる喜び、そして未知なる世界との遭遇は大きな魅力となっているのだろう。そこで、さらに自身のことにも目を向けていただき、新しい自分の可能性を再発見するためには、旅すなわちトラバイユしてみるのも一考の価値ありとお勧めしたい。
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荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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