値上げは「悪」なのか 全国旅行支援便乗といわれないために

2022.12.12 00:00

(C)iStock.com/baona

全国旅行支援が10月11日にスタートして以降、一部の消費者からは宿泊料金の値上げに関する不満の声が上がっている。便乗値上げの指摘もあり、国土交通省や観光庁が対応に回っている。宿泊料金の値上げは「悪」なのか。宿泊料金の適正価格とはどのようなものなのか。

 10月11日に全国旅行支援が始まった直後、SNSで「便乗値上げ」というワードがトレンド入りした。20年に実施されて旅行需要の急増を呼んだGoToトラベルキャンペーン同様、全国旅行支援には開始前から期待が高まり有力旅行サイトでは売り切れが相次いだ。そうした中で宿泊料金を大幅に引き上げた宿泊施設も現れた。こういった宿泊施設の料金変動が便乗値上げに見えたわけだ。

 2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギーや食糧価格が高騰し、急激な円安傾向も相まって物価上昇が危惧されるなか、心配されたのが便乗値上げだった。原価の高騰の影響を受けた物品の値上げに対する批判はあまり聞かれないが、現下の状況を隠れみのに値上げを図る動きに対する社会の警戒感は高まっていた。

 消費者庁は政府の原油価格・物価高騰等総合緊急対策の一環として4月28日に「便乗値上げ情報消費者受付ウェブ窓口」を開設し便乗の動きをけん制した。消費者庁は、価格は自由競争のもとで需給の動向やコスト(労務費、原材料費、エネルギーコスト)の変動などの市場条件を反映して決定されるもので、経営判断に基づく自由な価格設定は妨げられないと説明。そのうえで「最近の物価高騰に乗じて、そうした合理的な理由がないにもかかわらず値上げを行う場合は便乗値上げに当たる可能性がある」とした。

 全国旅行支援以降に起きたとされる宿泊料金引き上げは、合理的な理由がなく便乗値上げと排除されるべきものなのだろうか。消費者庁の定義を見ても適正な値上げと便乗値上げの線引きは難しい。値上げに合理的な理由があるかどうかの判別は簡単ではない。前提となる「経営判断に基づく自由な価格設定は妨げられない」という点でも宿泊料金の値上げを便乗と判断するのは難しい。

 宿泊料金はもともとシーズナリティーや季節変動、イベントなどに大きく左右される。ゴールデンウイークや夏休み、年末年始といった繁忙期の宿泊料金が閑散期の2倍になるのは普通のことで、週末と平日でも料金は大きく変わる。オリンピックやワールドカップ等の大型イベントや人気アイドルのコンサート開催地では宿泊料金が10倍になる事態も珍しくない。最近ではダイナミックプライシングの導入が進み、需給バランスの変動は敏感に料金に反映される。

 そういった宿泊ビジネスの実態を踏まえれば、全国旅行支援の開始以降の宿泊料金の値上げを便乗値上げと糾弾されてはかなわないとする宿泊業界の声も聞かれる。一方、批判の声の中には、これまで安い宿泊料金に甘んじてきた宿泊業者が、国費で実施する全国旅行支援に合わせて値上げすることが税金の横取りでけしからんというものもある。

監督官庁は厳しく対処する姿勢

 とはいえ、批判が高まれば全国旅行支援の実施にも影響を及ぼしかねない。斉藤鉄夫国土交通相は10月18日の会見で、必ずしも値上げのすべてが不適切とは言えないことや、現状では便乗値上げの報告は受けていないと断ったうえで、「いわゆる便乗値上げが行われないよう事業者に周知するとともに、事実が確認された場合には都道府県ともしっかりと連携して厳正に対処していく」と述べている。また、観光庁は10月17日付で、全国旅行支援への便乗値上げが確認された場合は事業者の登録取り消しなどの措置を含めて対処するよう自治体に通知し、便乗値上げについては厳しく対処する姿勢を見せた。

 自治体も便乗値上げのけん制に動く。新潟県の花角英世知事は10月19日の会見で県内の便乗値上げについて問われ「どういう状況なのか、県内の事業者にそういう声があるのか、これから部局を通じて確認していきたい」との考えを示した。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年12月12日号で】

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