<PR>インバウンド本格再開へ ガイドへの期待と育成

2022.11.21 00:00

和田浩一(観光庁長官)
吉川健一(インバウンドガイド協会代表理事)

水際対策の大幅緩和で訪日観光への門戸が開かれ、日本は再び観光立国へと歩を進めている。重要なテーマに掲げられているのが、観光消費額の拡大と地方への誘客だ。実現へ大きな役割を担うガイドへの期待と育成について、観光庁の和田浩一長官とインバウンドガイド協会の吉川健一代表理事が対談した。

わだ・こういち●1964年生まれ。86年東京大学法学部卒業後、運輸省入省。観光庁観光資源課長などを経て、18年観光庁次長、19年航空局長などを歴任。21年7月から現職。

和田 コロナ禍に見舞われ、観光、特にインバウンドは大きな影響を受けましたが、日本が外国人旅行者にとって大変魅力的な観光地であることに変わりはありません。訪日観光もいよいよ本格的に再開され、観光庁もコロナ禍前の需要に戻ると想定する25年に向けて、しっかり取り組んでいきます。課題は高付加価値旅行者などによる観光消費額の拡大と地方への誘客促進です。地方にあふれている魅力的な観光資源の本当の良さや奥深さを旅行者にしっかり伝えていただくために、ガイドは非常に大事な役割を担っていると思います。ガイドの皆さまには、旅行者目線で質の高い案内を行っていただき、また持続可能な観光へ意識の変化も進むなか、こうしたことにも対応したガイドを行っていただくことでリピーターが増え、観光消費額が拡大し、地域の活性化にもつながっていくことを期待しています。

吉川 旅行者ニーズの高度化と多様化に対応できるガイドがいま求められています。コロナ禍の影響で転職や廃業を余儀なくされた方が少なくないことには心が痛みますが、特に地方において良質なガイドの人材確保はこれまでにも増して大きな課題となります。そこで良質なガイドの育成に時間と費用をかけることが必要な段階にあるのではないかと思っています。観光庁にはこれまでさまざまな対応をしていただいており、これからの新たなガイドのあるべき姿などについても、議論などをしていただけるとありがたいと思います。

和田 観光庁ではコロナ禍におけるガイドへの支援策として、研修会講師としての就業機会の提供や、高付加価値旅行者が求めるサービスを熟知した専門家による実地研修を実施し、スキルアップの機会の提供などを行ってきました。今後のガイド業務においては、地域を訪れる旅行者にその地域独自の文化、伝統、産業や人々の日々の暮らしぶりなどについてのストーリーを組み立てて、そのストーリーをわかりやすく伝えていただくことが求められます。そのうえで、高付加価値旅行者のニーズに応えられるガイドの育成も重要なテーマになりますので、今後の育成策を探っています。

吉川 地域でのガイド育成の取り組みは、コロナ禍の直前ぐらいまでに一定の軌道に乗っていたと思いますが、コロナ禍を経て、それをもう一度組み立て直す良い機会になっているのではないでしょうか。今後の大切なポイントは、ご指摘があったように、地域の日々の暮らしぶりを見ていただくことだと思います。そして、地域の人々が本当に良いと思っていることや大切にしてきたものなどの価値を、安易に外国語化するのではなく、しっかりと説明できるようなスキルが重要となります。そのためのトレーニングを育成プログラムの中に取り入れることができれば、ガイドのレベルアップを図っていけるのではないでしょうか。

よしかわ・けんいち●1992年明治大学商学部卒業後、商社勤務を経て、2008年に通訳・翻訳業界に参入。14年にBRICK’s 代表取締役社長就任。22年10月からインバウンドガイド協会代表理事も務める。

和田 高付加価値旅行者は、旺盛な知的好奇心を伴う自然体験や文化消費などを通じて、地域活性化や持続可能な観光の実現に寄与する存在でもあると認識しています。こうした高付加価値旅行者が求めるガイドに対応するスキルを身に付けるためには、必要な研修の強化や、日本政府観光局(JNTO)とも協力して新たな認定資格などを設けることも一案だと思っています。具体的な議論はこれからですが、今後全国に10カ所程度を選定する予定である高付加価値なインバウンド観光地域づくりのモデル地域の中で実証していく考えです。こうした資格がガイドのモチベーションや収入アップにつながることも期待されます。一般のガイドの方々にも、例えば地方部あるいは英語以外の言語で対応していただけるようにするための研修の強化といったことも考えていきたいと思います。

吉川 素晴らしいお考えですし、われわれにとって大変ありがたいことです。こういう良い政策をわれわれ民間組織もぜひお手伝いできればと思います。18年の改正通訳案内士法施行により、ガイドの裾野は広がってきましたが、これからのガイド不足の問題をカバーするために、何かフォローができないかとも考えているところです。さらに今後は、旅行者や旅行会社に対して、それぞれのガイドが持つ知識や能力、スキルの見える化が必要になってくると思います。現場でのコミュニケーション力、ホスピタリティーマインド、災害時等での危機管理力、ITリテラシーなどが見える化できるようなレギュレーションを作り、ユーザビリティーが上がるようになればいい。それがガイドの収入増にも反映できるようになればいいと考えています。

和田 観光庁では、アドベンチャーツーリズムを推進して観光消費額の拡大を図る取り組みを進めていますが、ここでもガイドが果たす役割はとても大きいと思います。アドベンチャーツーリズムの要素である地域の自然、それに根差した文化や人々の暮らしがどのように形づくられてきたのかなどは、適切な解説がなければきちんと理解することはできません。また、アクティビティーは危険を伴うものも少なくありませんので、安全面がしっかりと担保されていないと安心してツアーに参加できないということもあるでしょう。コロナ禍が明けて新しい観光の形が求められていくなかで、かつてないほどにガイドのニーズや役割が高まっていると思います。

吉川 ご意見に全く同感です。人工知能やデジタルでできることは今後もさらに増えていき、情報の取得はそれで代替できますが、それゆえに今度は本物を知りたい、現地に行ってみたいというニーズがどんどん高まってきます。それを実際に体験する際には、人の介在や人による橋渡しをするといった役割がますます重要になってくるはずです。今後、高付加価値旅行者を増やしていく取り組みにおいても、質の高いガイドの人材育成は、施策の王道に近いものであろうと考えています。

インバウンドガイド協会のガイド育成プログラム

 インバウンドガイド協会は、地域観光の重要な担い手となるガイドを全国の自治体や観光協会、DMO等と連携しながら育成している。ガイドに求められる知識やスキルは幅広く、効果的に人材を育成するため、体系的に習得できる育成プログラムを整備。また、地域におけるガイドの基盤構築について、育成と活用の両面から専門家によるアドバイスも行っている。

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