長崎に吹く風 大型インフラ開業どう生かす

2022.11.21 00:00

(C)iStock.com/burdem

西九州新幹線開業、JR駅周辺の再開発、新スタジアムを核とするまちづくりプロジェクト、そしてIR誘致。長崎を舞台に大型インフラ整備が各方面で進む。全国でも人口の流出が著しいまちに人を呼び込み、地域経済の活性化を図る取り組みだ。ポストコロナへどう生かしていくのか。

 西九州新幹線が9月23日に開業した。前日には岸田文雄首相が外遊先のニューヨークで水際対策の大幅緩和を発表。コロナ禍の出口が見え始めたタイミングを見計らったような開業となった。

 1973年に整備計画が決定してから約半世紀がかりでこぎ着けた新幹線開業への期待は大きい。今回開業したのは九州新幹線西九州ルート(博多/長崎間)のうち、武雄温泉/長崎間の約66㎞。福岡からの直通運転ではなく、途中の武雄温泉で博多/武雄温泉間を運行する在来線特急電車から同じホームで乗り換えるリレー方式だ。それでも博多/長崎間の所要時間は開業前の1時間50分から30分程度短縮され約1時間20分に。新大阪/長崎間は約4時間30分から40分程度短縮され約3時間50分となり、利便性が向上した。

 開業から6日間の滑り出しは、武雄温泉/長崎間の利用客が約4万6000人、前年比223%増、コロナ前の2018年比で12%増(諫早/長崎間の特急かもめの利用実績との比較)。10月22日までの1カ月間は前年比129%増、18年比2%の約19万8000人と開業直後ほどではないにしろ安定している。

 新たな観光列車も運行を開始した。新幹線開業により特急「36ぷらす3」が肥前浜/長崎間の運行を終えるため、観光特別急行列車「ふたつ星4047」の運行を開始。内陸を走る新幹線に対し、海に面して走る在来線の長崎本線と大村線を中心に運行し、沿線地域の魅力向上を図る方針。スピード重視の新幹線にはなじまない別ジャンルの観光需要の掘り起こしに努めていく構えだ。

停滞する経済のカンフル剤に

 新幹線開業効果に長崎に熱い視線が注がれるのは、県内経済の状況が停滞気味なためだ。経済活動の基盤となる長崎県の人口は22年1月現在で129万4000人。1年間で1万6000人近く減少した。このうち転出超過数は6625人となった。長崎市も2000人を超える転出超過で、県・市とも転出超過の自治体として全国でも下位にランクされる。県は1991年度以降、人口減少傾向が続いており、このままでは2045年には現在より3割近く減るとの推計もある。1人当たりの県民所得は全国平均を2割以上下回り、福岡県や佐賀県よりも低い。

 新幹線は博多からの直通運転を可能にする武雄温泉/新鳥栖間の延伸をめぐり佐賀県との協議が進まず、着工のめどが立っていない。それでも今回の開業は経済の低迷から抜け出す起爆剤として期待されている。長崎県はアクションプランの中で、「交流人口の拡大は新幹線開業によって最も期待される効果」だとしている。

 地元企業からも交流人口拡大への期待は高い。長崎経済研究所が県内主要企業374社に行ったアンケート調査によると(回答150社)、新幹線開業による経済へのプラス効果として「観光客やビジネス客が増加する」が78.0%と群を抜いた。開業を県の活性化につなげるために重要なことでは、「観光客の県内各地や九州各県への周遊促進」(56.7%)が最多で、「観光資源の掘り起こし」(52.0%)、「2次交通の整備」(45.3%)、「中心市街地の活性化」(32.7%)と続いた。

 実際に開業に際して、さまざまな施策が展開されている。受け入れ環境づくりでは沿線以外の市町も巻き込み、県の支援による観光メニューの拡充が進められた。佐世保市の周遊のための電子パス・チケットや雲仙市の夜型観光の充実、壱岐市のスポーツ合宿誘致、波佐見町の観光マップ作成などが行われた。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年11月21日号で】

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