米国人旅行者はいつまで欧州へ
2022.10.10 00:00

インフレのために米国人はこの夏の旅行を再考することを余儀なくされた。市場調査会社による4月の調査では、38%がインフレのため家にとどまり、23%が次の旅行を取り消した。60%はガソリン価格が下がらない限り家の近くで過ごすとした。しかし、欧州では米国人観光客への期待が大きいことをフィナンシャルタイムズなどが報じている。
英国ではパンデミックからの脱却に伴いコロナ検査要件が緩和され、有利な為替レートを活用する米国人観光客を中心に、予想を超える外国人観光客が訪れるようになった。その一方でアジアからの観光客の回復の動きは緩慢で、特に中国人観光客に遅れがみられる。
ロンドンには欧州からの観光客が最初に戻り、次いで米国からの観光客が戻った。テムズ川沿岸に建つロンドン塔は7月初旬、パンデミック以来初めて19年を上回る入場者数を記録した。同時期にグリニッジの国立海洋博物館とウェストミンスター寺院の訪問者数もそれぞれ19年レベルの70~80%に回復している。
訪問者の大部分は海外からで回復は予想より早い。ウェストミンスター寺院は6月初旬のエリザベス女王即位70周年を祝うプラチナジュビリーで話題を集めたが、1066年以来39回の戴冠式が行われ、世界に向けた広告塔になっている。
米国人は観光地訪問が中心で多額の支出をしてくれる重要な存在だ。年初からの英ポンドの対米ドル13%下落が恩恵をもたらしており、6月からのコロナ検査要件終了も米国人の海外旅行を後押ししている。
英旅行オペレーターの間では楽観的な予測もみられるものの、業界団体UKインバウンドのジョス・クロフトCEOは、とりわけ米国人観光客の伸びはパンデミック期間中に繰り延べていた旅行が検査要件解除により実行に移されたもので、一時的な要素が大きいと警戒する。
EU離脱後の英国での免税ショッピング終了も気がかりな点だ。特に中国からの裕福な個人旅行者にとって英国はあまり望ましくない目的地になる可能性がある。英国への19年の中国人観光客数はEU域外訪問者の4%であったが免税ショッピングの支出割合は26%だったからだ。免税効果がなくなった現在、熱心な買い物客がロンドンから他の欧州の都市へ回る心配がある。
事実、欧州各地ではぜいたく品、高級ワイン、高級ホテルなどに出費をいとわない米国人旅行者の例が報じられる。付加価値税(VAT)の返金サービスを提供するプラネットによると、米国人旅行者が欧州で使った金額は19年同月比で56%増。高級ブランドのリシュモンは4~6月の欧州の売り上げが42%増加した。ホスピタリティー業界のデータ分析を行うSTRによると欧州のホテル1泊平均宿泊料金は前年から44%上昇している。
欧州観光業界の活況が米国人旅行客のみに依存しているとは言えないが、米国人の多くが欧州再訪を考えているとも報じられる。アジアからの旅行客が回帰するまでの間、英国と欧州の観光地にとって米国人旅行客は期待の星のようだが、インフレに苦しむ米国人が欧州にいつまで押し寄せ続けるかは不透明でもある。
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