英OTAがライアンエアー提訴

2022.01.31 00:00

 旅行会社と航空会社はパートナーといわれるが、直販を原則とする格安航空会社(LCC)とオンライン旅行会社(OTA)の利害は対立する。英国最大OTAのオンザビーチが欧州最大の航空会社でLCCのライアンエアーを優越的地位の濫用と訴えた裁判にその典型が見える。

 オンザビーチはライアンエアーから自社顧客が直接予約客より不便な扱いを受けたり、高額の運賃を請求されたと損害賠償を求めた。ライアンエアーは20年12月からオンザビーチに予約チェックイン機能設定を拒否し、顧客に予約や搭乗手続きを直接自分でするよう要求した。

 旅行専門誌によると、ライアンエアーの不公平な行為はOTA全体に及び以下を挙げる。OTA顧客の支払った運賃と手荷物料金は所定料金を上乗せしていると示唆するメールを顧客に送った、パンデミック期間の欠航によるリファンドでOTA利用客を自社顧客より後回しにした、など。特に問題になるのは、クレジットカードで支払った代金がライアンエアーから返金されなくてもOTAは顧客にリファンドを迫られることだ。ライアンエアーは返金を遅らせても顧客の反発を受けることなく数千万ポンドを保持できる。多くの旅行会社の手元資金(弁済用信託基金)が十分でなく、リファンドがなければ各社のブランドイメージが大きく傷つく。

 パンデミック期間のリファンドには別の問題があるが(12月20・27日号参照)、今回の提訴でオンザビーチはパッケージ旅行法によるリファンド義務をライアンエアーが実行していないと告発。一方、ライアンエアーは一昨年春の旅行制限期間の欠航によるリファンドを、いくつかのOTAが顧客に渡していないと主張する。

 ライアンエアーのマイケル・オレアリーCEOは過激な発言で知られ、常にエージェントに対する敵意を隠さず、OTAを「高値を吹っかける詐欺師」と呼ぶ。同社がエージェントの排除にこだわるのは、利益の最大50%を占める物品販売、座席選択、レンタカー、ホテル予約など付随収入を失いたくないからだ。

 ライアンエアーはそれによる公示運賃を低く抑える商法の先駆者だ。実際には同社フライトに200万人以上をエージェントが送客する。他の多くのLCCは高マージンが得られるパッケージ販売でエージェントを利用しており、自社直販以外のフライトだけにはAPI予約料を課してエージェント販売を制限している。

 パッケージ旅行の顧客はまずデスティネーションと提供されるホテルを基準に商品購入を決定し、フライトは通常、最低運賃と最適の運航時間の組み合わせによる輸送サービスと考える。OTAはLCCグループの旅行会社と違いさまざまな航空会社の最適の組み合わせを行う能力で航空座席の販売促進に寄与している。

 LCCの直販は理解できるが、OTAの販促効果によるロードファクター上昇は失われる付随収入を上回り、早期販売で座席オンリープロダクトの残席に高い運賃請求が可能になるとOTAは考える。裁判はまだ行われていないが、英国の裁判所でオンザビーチが勝訴すればライアンエアーに対する提訴が増えるだろう。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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