旅行キャンセルとリファンド

2021.12.20 00:00

 ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)とライアンエアーは、パンデミックで法的に搭乗を禁止されたフライトの顧客に現金による払い戻しをしなかった。6月、英国競争市場庁(CMA)は実態調査を開始。顧客に対してBAはバウチャーまたは再予約の権利、ライアンエアーは再予約のオプションを提供した。航空会社は手元に現金を保持できる。英フィナンシャルタイムズによると、BAは当局の調査自体間違っていると指摘、罰則を科せられると雇用に影響するとCMAを非難した。

 10月になってCMAは、パンデミック期間のフライトを予約した旅客はリファンド(払い戻し)の権利があることを確認したが、その行使を強行する法的根拠は十分でないことを認め調査を打ち切った。消費者保護法は航空会社がフライトをキャンセルしたとき、契約したサービスを提供できないのだから旅客はリファンドを受ける権利があると規定する。

 しかし本件は航空会社がフライトをキャンセルしたのではなく、予約した旅客がロックダウンで搭乗を禁止されたものだ。CMAは消費者保護の立場から事実と関連法を徹底的に検証した。その結果、調査で得られたエビデンスから、このような異常な状況下で発生した事案の裁判は判決までの時間がかかり過ぎる上に成否も不確実で、審議を長引かせて公的費用を浪費することも正当化できないとした。CMAの権限は法律のまま執行するだけだから調査の打ち切りもやむを得ない。

 航空会社は調査の打ち切りを歓迎した。ライアンエアーは「英国のロックダウン期間に旅行せざるを得ない顧客のために、わが社は限られたスケジュールで運航し、旅客はフライト変更料金なしに予約変更のオプションをもち、多くがこれを活用した」と発表。BAは「この前例のない危機の間、わが社は常に法律を順守して数百万人の顧客に400万件近くのリファンド(バウチャーなど)を処理し、旅行日や目的地の変更ができるフレキシブルな予約ポリシーを提供した」とした上で、「パンデミックの間、旅行者と貨物のための重要な空路を保証する限定したスケジュールを維持し、突然に変わる旅行制限の中で巧みにかじ取りをしてきた」と自賛した。一方、他の航空会社のいくつかは大半の旅行が禁止されたロックダウン期間中でも運航を継続し、フライトキャンセルの場合だけ旅客にリファンドしたことを非難されている。

 CMAの代表は、ロックダウン規則で法的に旅行を阻止された人々が航空会社からリファンドを受けられなかったことが不公平だったとして、消費者のために始めた調査が挫折したことを嘆き、当分野の法律を改善する希望を持っていると述べた。

 今回は法律と権限の限界により消費者保護が不完全なことを示したが、政府はCMAに消費者保護法違反の会社に直接罰金を科す権限を与えることを含めた制度改正を約束した。消費者保護法による航空旅客のリファンドは失敗したが、パッケージ旅行法ではパッケージ旅行者のリファンドが可能になる。同法は消費者にリファンドの権利を与えており、CMAはTUI-UKやヴァージンホリデイなどにパンデミックで旅行を阻止された消費者に数百万ポンドをすでに返金させた。結婚式や貸別荘などの分野でもリファンドの権利を確保した。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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