競争力ある航空会社にスロットを

2021.10.25 00:00

 昨年から続くパンデミックで航空各社のフライトは激減した。航空会社の多くは配分された発着スロットをポストパンデミックの旅行復活に備えて維持しているが、EU規則では付与されたスロットは80%利用しなければその権利を失う。EUから脱退した英国でも規則はほぼ同じだ。スロット数に限界があり、負債の担保としての利用を含め貴重な資産だから、その維持のために空便(ゴーストフライト)を飛ばす会社も現れる。

 この状況はパンデミックで変わった。生き残りに懸命のフラッグキャリアを抱える政府は、昨夏にスロットの「利用するか放棄するか」規則の一時的緩和を行った。英国政府は夏期にも採用したが、冬期スケジュール(10月31日~22年3月26日)の便が50%減少してもスロットを保持できることにした。政府が定めるレッドリスト国(旅行制限国)へのフライト削減は対象にしない。

 デジタルワクチンパスで運航を促進したいEUはさらに進んで航空会社にスロットの50%運航を求めるが、規則上はEU内空港のスロット差し止めはなく、その理由でスロットを放棄させる選択もない。各国政府は空席のフライトを飛ばさせたくないし、資金流出が続く自国フラッグキャリアを失いたくない。ポルトガルのTAPや長く負債にあえぐアリタリアなど政府に救済された航空会社はリストラの一環で短期路線用機材を20~30%削減しており多数のスロットが利用されていない。他のレガシーキャリアも状況は変わらない。

 航空産業に対する政府支援を反競争的として批判してきた格安航空会社(LCC)、特にライアンエアーはスロット規則の緩和に反対する。利用しないスロットにあぐらをかいている航空会社は航空産業の活性化を阻害する。旅行制限の緩和が始まり、今年中の需要回復が見え始めて未利用スロットの長期保持を正当化するのが難しくなった。

 この危機的状況を一生に一度の好機として路線を猛烈な勢いで拡大しているLCCがある。欧州の覇者ライアンエアーに挑戦するハンガリーのLCCウィズエアーは空港スロットをかき集め、ポストコロナの市場回復を見据えて西欧に新たな基地を開設している。レガシーキャリアを含むライバルたちがコロナで縮小したり倒産するなかでウィズエアーは機材を120機増やして270機にする。

 一方、ライアンエアーは200機以上発注しており、26年までに600機保有する計画だ。両社とも自社の経営コストが業界最低と主張してポストパンデミックに自信を示す。もっとも両社の拡大計画がそのまま成功すれば欧州市場をLCC2社が独占する形になり非現実的だが、競争力ある会社がスロットを増やすのは当然だ。格安市場でライアンエアーの長年のライバルだったイージージェットは買収される噂がある。同社の主要空港スロットは高コストなのでLCCが買収するのは得策でないはずだが。

 空港スロットは短期ベースで購入することも可能だ。市場が縮小している時期の新たな路線投資は損失を増やすが、未利用のスロットを最大限活用できる会社は欧州経済を活気づける。フィナンシャルタイムズは弱体化した航空会社や国有化された航空会社からスロットを削り、競争力ある会社に振り分ける仕組みが欧州に必要と論じている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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