どこへ行く日本版IR 横浜の誘致撤回で情勢流動化

2021.10.18 00:00

(C)iStock.com/charles taylor

日本版IR(統合型リゾート)の自治体から国への申請受け付けが始まった。最近まで正式に誘致を表明していたのは4地域だったが、横浜市が誘致方針撤回を表明し現実的に残るのは3地域。この中から最大3カ所がIR開業へ向けた次のステップに進む。日本版IRをめぐる現状を整理しながら日本版IRの行方を展望する。

 大阪府と大阪市は9月28日、大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」での開業を目指すIRについて、設置運営事業予定者として米国のMGMリゾーツインターナショナルとオリックスのコンソーシアムを選定したと発表した。これでIR誘致を正式表明していた和歌山県、長崎県、大阪府・市の3地域の事業予定者が出揃ったことになる。

 開業一番乗りを目指す和歌山県は6月2日、IR設置運営事業者としてカナダのクレアベスト・グループを優先権者に選定。8月25日には同グループと基本協定を締結済みだ。長崎県も8月10日に優先交渉権者として選定されていたオーストリアのカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパンと8月30日に基本協定を締結している。

 今後は自治体と事業者によって区域整備計画をまとめ、国への認定申請を行うことになる。認定申請の受け付けは10月1日から始まっており、来年4月28日の締め切りまでには、IR誘致を目指す各地域の区域整備計画が出揃う。

 IRが実現に向け第一歩を踏み出したのは16年のIR推進法の成立からだ。18年にはIR整備法が成立し具体的な動きが始まった。観光振興の起爆剤になると期待されるIRは多くの自治体が関心を示した。当初は東京、大阪、愛知、福岡あるいは千葉、横浜など大都市圏を擁する地域や、北海道、沖縄といった観光に強い地域、さらにはリゾート型IRを志向する和歌山や長崎など数多くの地域が積極姿勢を示した。

 世界の経済先進国では唯一、カジノがない残されたフロンティアとして注目を集めてきた日本がいよいよカジノ解禁に踏み切るというニュースに、世界中のカジノ事業者やゲーミング事業者は色めき立った。本場ラスベガスの大手事業者であるMGMリゾーツ、シーザーズ、ラスベガス・サンズ、ウィンリゾーツや、米国のハードロックも日本進出の可能性を模索した。

 マカオや香港を拠点とする事業者のギャラクシー・エンターテインメント・グループ、メルコリゾーツ&エンターテインメント、SJMホールディングスも日本進出を見据え動いた。ギャラクシーは14年にはいち早く日本オフィスを開設し、市場調査や各自治体へのアプローチなど下準備を進めた。マカオを基盤とするサンシティグループは「IR2.0」のコンセプトを掲げ日本進出を目指した。

 このほか、カナダのクレアベスト・グループは17年に日本法人を設立し進出機会をうかがってきた。さらにオーストリアのカジノ・オーストリア・インターナショナルやシンガポールのゲンティン・シンガポール、日本のセガサミー・ホールディングスも参画意思を表明していた。

 しかしその後、日本の各地域の取り組みが弱まり、事業者側のもくろみも外れる事態となった。課題となったのはカジノに対する住民等の拒否反応だ。IR事業に関連して秋本司衆議院議員が収賄罪に問われた問題も足を引っ張った。首都圏の最有力候補地で誘致表明していた横浜では、反対派の山中竹春氏が8月の市長選で当選し、9月の市議会で誘致撤回を正式に宣言することになった。

 沖縄ではIR誘致反対派だったデニー玉城氏が18年9月に知事になると11月には「沖縄にIRは必要なし」と切り捨てた。北海道も19年から20年にかけ誘致見送りと誘致再開の間で揺れ動いたが、今年1月の道議会で10月からの申請に間に合わないとして誘致を断念した。千葉市も20年1月に熊谷俊人市長が誘致申請見送りを発表。当初は誘致に意欲を見せていた地域が次々脱落した。福岡や愛知はIR誘致に関心を示しているものの、誘致表明に至らないまま現在に至る。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月18日号で】

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