GoToは感染拡大の要因か
2021.07.12 08:00
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これまで2回にわたりGoToトラベルキャンペーンに批判が噴出した理由と経緯を検証した。①GoToは金持ち優遇施策なので不公平、②GoToで観光業界だけ助けるのは業界利権だ、という批判に反論してきたが、今回は③GoToが感染拡大の原因となったのは明白、という声に対して考察しておきたい。
日本医師会会長による20年11月の「エビデンスはないが間違いない」という発言をきっかけにGoToトラベルが感染拡大の原因だという認識が国民に広く浸透してしまった。「人が動くのだから感染拡大に無関係なはずがない」というシンプルな理由に、「医療関係者は旅行にも行けない」というやっかみのような世論が組み合わされて一気に旅行は悪者になった。
その後、しばらくの間は擁護派と否定派が激論を交わしていたが、21年1月に京都大学の西浦博教授らが発表した論文「20年7月~8月におけるGoToトラベルキャンペーンや旅行とコロナウイルスとの関連」(筆者訳)で、「初期のGoTo事業が感染拡大に影響を及ぼした可能性がある」という解説が大きく取り上げられたことで世論は固まったといえる。
しかし、論文は因果関係に直接触れておらず、その後のネット記事「西浦教授が『GoToトラベル研究』への批判に答える」に以下の記載があることをわれわれは知っておく必要がある。「今回の分析ではGoToが感染につながったかどうかの因果関係を判断することができない」と明記した論文をセンセーショナルに発表した意図は、「GoToトラベルという政策が制御を考える上であり得ないという(中略)信念があるため」。政策変更に向けた世論形成のための意図的な発表であることを教授本人が認めている。
一方、20年12月に国立感染症研究所のチームが発表した論文「日本における新型コロナの発生に対する気候条件、移動、対策の影響」で、「移動度と温度が(感染拡大に)に関連している。(中略)GoToトラベルは感染性を高めないことがわかりました」と言及。「本研究は著者の意見に基づいており、関連する団体のいかなるスタンスや方針も反映していない」と強調しており、西浦論文とは対照的なものなので一読されたい。
しかし、結果として世論が前者を受け入れたことはやむを得ない。本来は「通勤や外食などの日常生活と比較して、旅行による感染リスクは高いかどうか」を論ずるべきところを、「旅行によって絶対に感染しないということを証明しろ」という「悪魔の証明」を求める風潮が強くなってしまったからだ。
15年の全国都市交通特性調査(パーソントリップ調査)によると、移動全体における旅行の割合は平日2.3%、休日9.8%に過ぎない。もちろん、GoTo期間中の旅行者数はこの調査時点より少ないし、GoTo利用者はその中のさらに半分程度なので、移動先での接触によりコロナが蔓延したとしても、その中でGoToの「貢献度」はせいぜい1~2%だ。
とはいえ観光・旅行業界も、消費者の不安を「GoToは無関係」と突っぱねるのではなく、GoToによって感染者が発生していた可能性について受け止めておく必要があるだろう。一方で旅行は日常生活と比較しても同等以上に安全であったし、それは旅行者と受け入れる事業者の相互努力の成果であったという自負も必要だ。その実績の再周知に加え、一部のルールを遵守しなかった利用者や事業者への対策、過度な集中を避けるための需給調整など客観的な修正が加えられることによって、1日も早いGoTo事業の再開を期待したい。
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永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社後、ゆのごう美春閣M&Aをはじめ数件の再生案件に関わる。日本旅館協会副会長、元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。
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