政府が救済する航空会社
2021.06.28 00:00

欧州の各政府はパンデミックで危機にある自国のフラッグキャリアを救済するため数十億ユーロの支援を行っている。5月のフィナンシャルタイムズ(FT)は以下のように現況を伝えた。
フラッグキャリアは国家にとって戦略的に重要な企業で、公的支援は破綻を避けるためのやむを得ない措置だが、20年前に航空産業に始まった民営化の流れは逆行した。昨年、15の航空会社グループが公的支援を受けており、それがなければ多くの航空会社が破綻していただろう。
フランス政府はエールフランス-KLMの持ち株を30%近くに増やした。ドイツ政府もルフトハンザ・ドイツ航空の株式を20%取得。イタリア政府はアリタリア航空に200億ユーロ以上を投資し100%所有にした。アリタリアは20年から新会社ITAとして国有化された。政府の財政支援条件として欧州委員会(EC)の承認が必要となるが、ECはイタリア政府に空港スロットや人員削減とハンドリングとグラウンドサービス部門の売却を求めている。
フランスとドイツは航空会社を国営化する意図はない。エールフランス-KLMもルフトハンザもやがて利益を上げ、経営が健全化されれば株式を売却して投下資本の縮小を予定しており、また一般からの資本増強で一部でも政府資金の返済を期待する。回復は長引くかもしれないが、両社ともコロナ以前の業績は極めて順調だった。
パンデミックはこの危機に対応して公的資金規則を緩和した欧州と米国、英国の違いを際立たせた。米国と英国は数十憶ドルの融資その他の支援をしたが株式の所有はしなかった。その結果、米英の航空会社は危機を切り抜けるために徹底的な合理化を強いられた。それが航空会社を効率的で競争力のある会社にすると、ライアンエアーのマイケル・オレアリーCEOはいう。
ヴァージンアトランティック航空のシャイ・ワイスCEOは「危機が終わった時、政府企業にならなかった会社は制約から解放されて改善を続け、より機敏で柔軟性のある会社になる」とする。ヴァージン航空は昨年、英国政府に支援パッケージを断わられ自力で資金を確保した。彼はフラッグキャリアだけが利用できる支援は差別的で、航空の欧州連合(EU)単一市場を弱体化させると主張する。
なお、オレアリーCEOは公的支援が市場を歪めるとして、欧州裁判所に公的資金投入規則を精査するよう16件の訴訟を起こした。そのうち5件は敗訴したがTAPポルトガル航空とKLMの支援金の返済猶予を無効とする下級審裁決も出た。
政府による航空会社株保有は経営に対する政府介入の懸念とともに公平な競争と自社利益の境界維持という難題を抱えることになる。その中には新環境基準の適合がある。フランスの閣僚は2時間半以内に列車で代替できる路線のフライト削減を支持。顧客も環境に優しいオプションを求める。
パンデミックは政府が倒産させたくない航空会社の重要性を明確に示した。下落した株価は外国の競争会社には安い買収目標になった。欧州では欧州企業に参画を狙う米国や中国の潜在的脅威に対する憂慮を蘇らせた。投資機会は明らかに開放されているので、国内の重要企業がプレデターの餌食にならないよう政府は保証する必要がある。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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