常識の嘘

2021.05.31 08:00

 バスは最も身近で便利な公共交通機関である。すぐに乗れて、降車時は各バス停で止まってくれる。これは恐らく日本では常識だろう。が、少なくとも欧州では、これらは非常識だ。乗客は自分が乗車したい時、バス停で迫り来るバスの運転手にタクシーのように「乗車アピール」し、降車希望時は必ずボタンを適切なタイミングで押す。そうしないと大きなバス停(例:空港)でもスルーされる。これが欧州の常識だ。

 一方で日本はそのサービス過剰度はいまだに世界でも群を抜いている。電車での数分遅延のお詫びアナウンス、小額商品の購入でもお客さまは神様的な逆アピール。

 これらの違いは果たして民族性の違いなのか、単なる制度の違いなのか、世界の消費者を相手に海外勢と互角に勝負するには、どうしてもこの謎を解き明かす必要がある。一体何が世界の常識で、何が非常識なのか、実体験からまとめてみたい。1つ目はロックダウンと緊急事態宣言の違い。2つ目はサービス業における客と店の立ち振る舞いの違い。そして3つ目は電話応対における日欧での違いだ。

 まず、欧米のロックダウンの例で、フランスにいる友人は自宅から10kmという外出制限を越えて警察の尋問を受けた。が、事情説明し、なんとか了承を得られたという。また、ワクチン摂取の時間が1時間ぐらい前後して接種会場に到着しても何の問題もなく摂取完了する。実質・実態重視、つまり形式はあまり気にせず、問題は個々人が自己責任でその都度現場で解決している印象だ。

 片や日本では基本的に形式・忖度重視だ。ハンコ1つ、添付書類が1つないだけで給付金等申請届は受理されない。一方で外出禁止令を出さずとも大多数はある程度忖度する空気をつくりだし自粛警察まで登場。よって宣言だけでもある程度有効に機能する。そこに個人主義や自己主張はあまり感じられない。これが欧米人には謎に映る。ルールの意義が理解しにくいのだ。

 次にサービス業における客と店の立ち振る舞い。これもまったく逆である。日本では当然客の立場が上だが、欧州では店側が上だ。「嫌なら買ってくれなくて結構」という態度を徹底。日用品のスーパーであれアップルの店舗であれ、同じだ。態度の悪い客は誰であっても放置かたらい回しの刑に処される。

 最後に電話応対の違いをみてみよう。欧米では論理的に対応し、言語も最低2~3言語から最初に選択できる。かつ、できる・できないを初めに告知されるので無駄がない。日本では英語での電話対応はあまりなく、また一見丁寧な対応だが、15分も話して最後に無理とわかってガックリすることも少なくない(航空券など変更対応など)。結論から先に言う欧米文法(文化)と、なるべく努力する姿勢をアピールする日本文化の違いが出ている。

 日本はクレームからの衝突を極度に嫌う「和重視」文化。だが欧米型に慣れると彼らの大雑把さも時に都合がよいことがある。個人的には結果的に、各人が思い思いに都度主張・意見し活動的になれる分、最終的に欧米型の方が社会全体での満足度がやや高いように思う。

 欧米では徹底してユーザーは個人責任で行動するため、なんでも明文化する「ルール化主義」がある。一方、日本は相手の意向を忖度する「空気読み主義」が国民的コンセンサスだ。いずれが良い悪いはない。これが私の持論(それが文化の多様性)だが、この違いを理解することは世界で商いする現代人には必須の教養ともいえるだろう。世界共通の常識はない。これが世界の常識だ。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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