ブレグジットと労働移動制限
2021.05.03 00:00
英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)によって労働者の相互移動が困難になった。英国内のレストランやホテルなどホスピタリティー産業にはイタリアなど欧州の外国人従業員が多く働いていた。ブレグジットでその数が減少して英国のインバウンドに悪影響を与えている。アウトバウンドについてもEUによる英国人の労働移動の制限が旅行業にも悪影響を与えており、英国メディアは以下のような現状を伝えている。
英国市場の特殊性と関係するが、英国人ツアー客の大部分は地中海周辺の特定のEU域内リゾートにチャーター機で大量に送客される。英国の旅行会社は伝統的に派遣する自社スタッフが現地で送迎を含む顧客サービスを提供する。ブレグジットによって、英国のツアーオペレーターがEU域内リゾートで雇用する季節労働者数万人に労働許可が必要になった。その多くが仕事を失う恐れがあることから英国旅行業協会(ABTA)は、政府に今夏の旅行業運営に支障が出ないよう対策を求めた。
対象は主にツアーオペレーターの現地レップとツアーガイドだが、慣例として年間8カ月の仕事で雇用される。英国政府はEUとの貿易交渉の中で旅行業界に必要な労働移動の協定を早急に結ぶべきだった。EU各国政府が発行する労働許可は、彼らをEU新規則のビジネス訪問者に分類し、半年間に90日だけ滞在を許可する。それでは大多数のスタッフは仕事も生活もできない。
EUと英国の間でビザ相互免除協定、ツアーガイドなど短期労働者を対象外にする制度の協定がないことは、この分野の大層を占める若年層の就業機会を奪う。EU域内の事業を支援する英国のアウトバウンド旅行会社の団体SBITによると、この産業の季節労働者の87%は18~34歳だ。現在の英国旅行業界の指導者の多くが、若い頃に欧州でこの仕事を始めた体験を持っており、それを人材養成の重要な機会と認識している。
欧州で労働許可を受けるのも簡単でない。旅行業団体の役員によると、フランス・アルプスのホテルでホストやツアーガイドなど仕事を求める英国人は17ページに及ぶ申請フォーム記入を求められる。官僚主義で有名なフランスの担当者が数千人の英国労働者の申請に対応するには少なくとも2カ月を要するだろう。またEU各国政府のそれぞれ異なる複雑な規則に対応する必要もある。
あるオペレーターは欧州各地に3年前に50人を配置していたが、今年は5人に減るという。それによって英国人労働者が集まらなければ、旅行先で英国人レップがいなくて英国人旅行者は難儀する。特に零細オペレーターの業界団体はスタッフが配置できないと宿泊施設のブロック仕入れの保証ができず事業縮小を余儀なくされると懸念する。現地のツーリズム産業にとっても顧客減少のリスクが生じる。
ABTAは英国の若者の労働モビリティー制度をEU域内に拡大するために各国と協議を始めるよう政府に請願した。この制度はカナダ、オーストラリア、日本を含む9カ国をカバーし、18~30歳の若者に2年間の労働ビザを提供する。英国政府は移動の自由の原則を重視しており、EUとの新たな関係の中で旅行産業の従業員の仕事が容易になるよう支援すると発表している。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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