カナダ海域での運航禁止措置
2021.04.12 00:00
昨年10月、米疾病対策センター(CDC)はクルーズ凍結を解除し、コロナ対応策として本格稼働前の試運転航海を指示した。しかし、2月時点でロイヤル・カリビアンとカーニバルの幹部はその後CDCから指示はなく、試運転開始の時期は未だ不明と伝えている。試運転に船客ボランティアとして参加希望者はロイヤル・カリビアンだけで15万人という。各社は当面の航海の取り消しや4~5月以降への延期を次々と発表している。
こうした時期にクルーズ業界に新たな難題が降りかかった。2月4日、カナダの運輸相は、コロナ蔓延のリスクが高いとして感染抑制のためにカナダ海域での客船運航禁止を、当初解除予定の今年2月28日を、22年2月28日まで延長すると暫定命令を発表した。主な対象は全海域での船客100人超のクルーズ船と北極圏での遊覧探検船の運航禁止で、20年の運航停止に次ぐ1年の延長は業界に大きな衝撃を与えた。カナダは北極圏観光、紅葉ツアーなどが有名だが特に人気はアラスカクルーズで、元々脆弱なアラスカ経済への影響や就業機会の喪失を業界は不安視している。
アラスカクルーズの主役は欧米各社の大型船によるシアトル、アンカレッジ等発着の5~9月の7~14日の行程で、クルーズライン国際協会(CLIA)によれば、アラスカクルーズ合計の20年予測で43隻、船客140万人、消費額7億9300万ドルであった。
この措置に反発してアラスカ州選出議員団はカナダとの交渉を主張、対応策として米国の1886年制定の船客船サービス法(PVSA)に言及している。米国の産業を外国との競合から保護する目的のカボタージュ(沿岸航海)規制で、外国船籍の客船は米国内2地点の船客輸送には日程上に米国以外の港湾1カ所への寄港が義務づけられている。
法律制定の時代とは打って変わり、現在の大手クルーズ船は米国企業であってもほとんど他国船籍でアラスカクルーズではカナダへの寄港をせざるをえない。アラスカ観光を二分するといわれるホーランドアメリカライン(船籍は大半オランダ)とプリンセス・クルーズ(船籍大半バミューダ)の日程では、典型的なシアトル発着コースでグレーシャーベイ、ジュノー、スキャグウェイなどの米国寄港の間にビクトリア、バンクーバー等のカナダ寄港が含まれる。
今回、アラスカ議員団が解決案として提示したのは、PVSAを一時的に適用除外として、カナダ寄港なしにカナダ海域をバイパスしてアラスカクルーズを実施するアイデアらしい。ところがPVSA変更は過去に例がなく至難と予想され、業界ではPVSAを「部屋に入り込んだ象」に例える。また、カナダに寄港しても船客・クルーが下船しないで表面的にPVSA遵守というテクニカルコール方式はカナダが排除している。
上記2社はクルーズの代わりに自営のホテル、ロッジ、バス会社などを活用して氷河観光、ラフティング、リバーボートなどのアラスカランドパッケージの提供を考えているらしい。
ただ、すべてのアラスカクルーズが壊滅でなく、アラスカンドリームクルーズやアンクルーズアドベンチャーなど航行可能な船客100人以下の米国船籍小型各社は、今夏大型船船客の受け入れに積極的に取り組む意向を表明している。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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