岐路に立つDMO 登録基準引き上げが迫る判断
2021.03.15 00:00
観光庁は今年1月、DMO(観光地域づくり法人)の制度改正後初となる更新登録を行った。その結果、7つの候補法人が登録DMOを目指す活動を打ち切る意思を示し、登録取り消しとなった。今後も更新登録の時期を迎える法人は継続か否かの判断を迫られることになる。
観光庁は昨年4月、DMOの登録制度に関するガイドラインを策定し、登録要件を厳格化するとともに3年ごとの更新登録制度と登録取り消し制度を導入した。背景には、DMOの目的や役割が必ずしも明確でなく、従来の組織からの看板の掛け替えにすぎなかったり、自治体などとの間で取り組みの重複があること。さらには安定的な財源の確保や人材の不足といった課題が指摘されていたためだ。
新制度に基づき、今年1月、第1弾登録から3年以上経過したDMOを対象に審査した。その結果、対象となった登録DMOの41法人はすべて登録を更新。その一方で、42候補DMOのうち7団体の登録を取り消した。7団体のうち4団体は16年中に候補DMOとして登録しており、3団体は17年中に登録している。ガイドラインの規定では、候補法人に登録してから3年を経過しても本登録していない場合は取り消すことになっている。7団体はいずれも本登録が難しいと判断し、登録に向けた活動を打ち切ることにした。
打ち切りの理由はさまざまだが、財源や人員不足のほか、コロナ禍により事業環境が大きく変化したことも影響しているようだ。
深刻化する財源と人材不足
観光地経営の舵取り役となることを目指して候補DMOに登録はしたものの、財源不足や人員不足といった壁にぶち当たり、本登録を断念せざるを得なくなったケースが目立つ。
青森県西目屋村のブナの里白神公社は16年5月に候補DMOに登録した。しかし、多くの観光客が訪れる白神山地の人気トレッキングルート「暗門の滝コース」が15年に起きた落石事故を受けて16年から入山規制を実施。一般の観光客は実質的に立ち入り禁止となり、入山客が激減した。公社が管理するアクアグリーンビレッジANMONはトレッキング拠点としてにぎわってきたが、入山規制後は利用客が急減した。さらに津軽ダムの完成に伴い工事関係者の来村もなくなり、公社が管理する公衆浴場等の施設の利用も大きく落ち込んだ。こうした逆風を受けて公社の財政が悪化し、16年度から赤字が続く状況に陥った。
角田克彦支配人は「内部留保も底をつき、経営立て直しを優先せざるを得なくなった」と話す。その後の努力で19年には黒字化を達成したが、候補DMOとして本登録を目指す取り組みは滞ったままになった。現在は西目屋村の単独DMOから方針を転換。弘前市などを中心に西目屋村も参加する地域連携型の候補DMO「Clan PEONY津軽」の一員として観光地域づくりを進めていく。「DMOは小さい地域が単独でやるより複数地域が協力してつくった方が効果的な活動ができる。それがこれまでの経験からわかってきた。人口わずか1300人の村がミクロに取り組むよりマクロでやった方がいい」(角田支配人)との考えだ。
福島市の土湯温泉観光まちづくり協議会も財源と人員の不足が撤退を決めた主な理由だという。16年5月に候補DMOの登録にこぎ着けたが、本登録を目指すなかで人材も財源も不足していることを思い知らされたという。池田和也事務局長は、「まず人材がいない。各種データの継続的な収集・分析やマーケティングプランづくりなどは職員だけでは難しく、コンサルタントや専門家の協力を得なければならない。しかし、その財源がない」と嘆く。財源だった観光案内所もスマホ時代になって利用客が減少。業務は縮小し、売り上げも低迷する傾向が続いている。「さらにコロナ禍が追い打ちをかけ、財政状況は悪くなるばかりで、DMOは諦めることになった」(池田事務局長)。すでに19年10月には協議会と土湯温泉観光協会を統合しており、今後は観光協会として行政支援も活用しつつ観光振興に取り組んでいく方針だ。
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