コロナがもたらす希望?

2021.03.08 00:00

 英国にシルバートラベルアドバイザーという高齢者旅行マーケット中心に調査研究をする組織があり、年に4回調査結果を発表している。今年1月の調査結果が2月に発表され、いくつか興味深い結果が報告されているので紹介したい。

 50歳以上の英国在住者約12万人を調査対象とし、2300人から回答を得ている。回答者の6割が60代で比較的健康かつ裕福で一昨年までよく旅行していた人たちだ。70代が30%以上を占め、退職者と女性の比率がどちらも75%に達する。昨春の調査は英国の最初のロックダウンの時期で、夏の調査の時期には一部海外旅行が緩められ、秋には最初のワクチン注射が行われた。そして今回の調査は新たなロックダウン中に行われた。

 大半がリタイア済みの人たちでコロナによる金銭面の損失はほとんどないが、重症化しやすいため感染への恐怖感は強い。その不安感も年末からワクチン接種が開始されたため和らいでいる。調査対象者の95%が接種に前向きで、否定的な人は2%にとどまる。21年と22年の旅行資金については、コロナ前と同じかそれ以上と答えた人が昨年7月の調査では30%だったが、秋に70%近くまで増加し、1月は90%以上となった。

 コロナで失われたものを複数回答で挙げてもらうと、海外旅行73%、家族や親戚とのつながり67%、国内旅行36%、友人との付き合い32%などと旅行関連と人的つながりがトップを占める。昨夏の調査で次の旅行先を尋ねたところ、54%が英国内、40%が欧州、その他が6%だったが、1月の調査では欧州が52%と英国内の30%を大きく上回った。ワクチン接種が昨年から始まり、住民がそれを前向きに捉えているため、旅行意欲が高まっていると思われる。

 日本の旅行会社の多くがコロナによる需要減少に悩み、店舗型からデジタル型への業態返還を迫られているが、調査では旅行店舗の復権が起きているかもしれないという結果が出ている。旅行予約方法を複数回答可能で調べたところ、昨夏は36%が旅行代理店経由と答えたが、1月は49%まで増加している。その半分以上が電話やメールでなく店頭での予約を希望しているという。

 旅行代理店を使う理由として専門性に基づいた助言と答えた人が49%だが、続いて問題発生時のサポートが42%、金銭面の安心感38%などコロナ絡みの予約金の扱いや取消料の問題などが影響し旅行代理店への信頼が増していることが読み取れる。大きな店舗網を有するTUIのような会社と独立系の旅行会社のいずれを好むかという質問では独立系が46%でTUI型の34%と差がついた。

 一昨年まで、世界の旅行市場が急拡大することを疑う人はほとんどおらず、むしろオーバーツーリズムの問題が指摘されてきた。コロナで訪日客がほぼゼロとなり、いまなら本当の京都を味わえると嬉々として出かける知人もいた。また、ベニスでは観光客の減少により数十年ぶりにきれいな海を楽しめるようになった。

 オーバーツーリズムとコロナ下のゼロツーリズム。どちらもあるべき姿ではない。適正なツーリズムを探るうえで、旅行店舗の果たすべき役割は思ったより大きいかもしれない。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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