料理とビジネスの原理原則

2021.03.01 08:00

 事業創造の楽しさを若い世代に伝えたい。私の長年の願望である。そのためにいつかイタリアにビジネススクールを創設するのが夢だ。料理がおいしく、人も心底優しいのがイタリア。料理のおいしくないところで、人と人との触れ合いのない場所で、どうして新しいことを素直に吸収できるだろう。20代の頃、イタリアのクライアントを得て、イタリア支社をつくり1年に数回出張に出たことで初めて本当のイタリアを知った。その鮮烈な感動体験から、いまもこの夢を追っている。

 生活環境の変化から、いやでも応でも自分で料理をせざるを得ない状況になって5年。もともと料理など全く趣味ではなかったが、どうしても和食が恋しくなり、料亭クラスの和食を海外でも食べたくなった。ここから私の料理への挑戦が始まった。

 ビギナーズラックとはよく言ったもので、最初につくった茶碗蒸しが、なんと出来過ぎというぐらいうまくできた。が、しょせん素人。2回目は失敗、そこでくじけかけた。でも根っからの負けず嫌いで、何度か挑戦するうち次第にうまくできるようになった。

 料理にはどうやらビジネスとの共通点がある。そう気が付きだしたのはその頃からである。それは何か。うまい茶碗蒸しの秘訣は卵とだしの混ぜ方と火加減にある。混ぜるときは、これでもかと細かな粒子が見えなくなるまで徹底的に混ぜる。火加減は時間そのものよりも表面の張り具合を見て、プリンみたいな感触ができる頃を見計らう。

 大事なのは、単に何回混ぜるとか、何分ゆでるとか、いわゆるマニュアル的にやるのでは駄目ということだ。ここがビジネスとの共通点だ。

 以降、新しい料理に挑戦するときは、ただマニュアルに書いてある通りにやるのではなく、なぜそういう風にするのか、その裏側にある意図を探ろうと意識するようになった。2品目の挑戦はチャーハン、その次は唐揚げと続いた。うまいチャーハンの鍵は、卵など水分を多く含むものは、ご飯とは分けて先に水分を飛ばしておき、最後に固めのご飯と混ぜることだ。こうすることでベタベタしない、からっとしたチャーハンができる。

 塩もいつも入れるのではなく、肉や具材の中に含まれる塩加減を計算して、まだ足りないと思う場合のみ加える。料理はたいがい逆の素材を組み合わせて味を整えるので、塩気の多い具材の時に追加で塩を入れるなどナンセンスの極みだ。味付けも調味料で済ますより、素材そのものからうまみを出せないかをまず考える。その方がずっと深みのある味になる。

 日本食とイタリア料理の共通点は、素材が豊富、海あり山あり四季もあり、と世界最高峰の食生活が楽しめる貴重な環境がある点だ。素材の良さをどう生かすのか。この点も人の適材適所と似ている。

 こうやったら成功しましたと本を書く人や、セミナーをする人がいる。結構な話だが、具体例とともに原理原則を教えてあげると、もっと信者も増えると思う。原理原則を理解せずに他の真似をしたり、塩を足したり、うまみ調味料を使っても全く意味がない。

 私はマニュアル文化を否定はしない。まずはレシピを見て、ある程度の全容は見えてくるものだ。が、なぜそうするのかが重要だ。正しく実行するためには原理原則を理解しないと話にならない。ルールや手順を丸覚えしないで、なぜそんなことが会社法で決められているのか、会計原則でそうなっているのか、すべてのルールには意味がある。それを理解して行動する。ビジネス成功の最低必要条件だと思う。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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