集団免疫ができるまでは
2021.02.08 00:00
12月はじめ、新型コロナウイルスワクチン接種が初めて行われた直後の、航空会社の反応をトラベルウイークリーが報じている。ワクチンは無論朗報ではあるが、航空会社とIATA(国際航空運送協会)はワクチンが世界的に普及し効果が出るのはまだ先という理解で、当座は旅行者への徹底した事前検査(医療スクリーニング)を実施し、旅行者の負担である隔離の免除で海外旅行を少しでも推進するとの認識であるらしい。
コロナ禍での海外旅行実施のために、航空会社と政府が主導して近隣の2つの国が自由に動ける安全な地域圏である大きなバブル(泡)の中に包まれていると見なし、旅行者の入国前後に徹底した検査により隔離を免除する手法はこれまでトラベルバブルと称されていた。5月にバルト3国で実施されたのが欧州連合(EU)最初のトラベルバブルとされ、過去14日間3カ国以外に旅行をしていない住民は、域内を制約なしに自由に移動できた。しかし9月にラトビア政府は、エストニアとリトアニアでの感染者増大を理由に、この協約の終了を告げた。
最近話題となった香港とシンガポールのエアトラベルバブルは直行便での両都市の往来を渡航目的にかかわりなく実行できる協定である。現実には11月の開始予定が香港での流行状況によって2度延期された。
ハワイへの米国人と日本人を対象とした同様の計画も、一時は旅行者と航空便の急激な増大をみた。旅行者は到着72時間前に指定医療機関で取得した陰性証明書を提出すれば隔離を免除される。しかし12月はじめ、カウアイ島での感染者が6週で2倍になり、ただちに同地の10日間隔離が復活した(1月に3日間に改訂)。トラベルバブルの前提として、当該両国が新規感染を一定程度抑制していることが条件であることがわかる。
ワクチン開始の12月時点でも、米国の主要な航空会社はスクリーニングを重要手段とするいくつかのパイロットプログラムについて公表している。一例として、デルタ航空が行政、空港、他の航空会社の協力を得て12月から運航するアトランタ/アムステルダム線およびアトランタ/ローマ線はビジネス、医療、教育など政府が認めた旅客のみ対象としており、出発72時間前のPCR検査陰性の提示、アトランタ空港での搭乗前検査、現地到着時の検査を経て14日間の隔離が免除される。デルタ航空は今後、この方式を観光旅行者、そして他地域都市にも適用したいとしている。ここではもうトラベルバブルという表現は使われず、2国間のトラベルコリドーと言っている。
12月にはニュージーランド政府が、オーストラリアとのタスマニアトラベルバブルを3月から実施すると発表した。すでにニュージーランド人の隔離なしでオーストラリア一部地域への入国については認められているが、今回は隔離なしの相互往来が確認された。両国間の航空実績は現在コロナ以前の5%となっており復活が期待される。この協約でも条件として、両国での感染の急激な増加がないこととしている。
IATAと航空会社はワクチンが普及して集団免疫ができるまでは、こうした手法の積み重ねで航空需要の回復を図るという姿勢のようだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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