英国政府の旅行業救援策
2020.12.21 00:00
10月末に期限が切れた英国の雇用維持制度は11月以降の継続が決まった。旅行業者だけの制度ではないが、この冬を乗り切れるか崖っぷちの旅行業者の命綱になった。旅行業の3分の1は休業中だ。同制度は5月にコロナによるロックダウンで事業閉鎖を強いられた事業者の雇用維持対策として始まった。現制度は拡大され来年3月末まで休職中の従業員すべてに正規給与の80%の給付金が支給される。失業保険、年金拠出金は雇用主が負担する。多くの旅行会社はすでに従業員全員あるいは一部を解雇したが、来夏のシーズンに備え自宅待機などで解雇を避ける努力を続ける会社もある。言うまでもなく旅行業の資産は人材だ。
旅行業が生き残るには旅行需要が必要だ。パンデミック下での施策は限られるが、政府はコロナ感染検査の拡充(計画中)、低リスクのデスティネーションへの旅行促進のためにトラベルコリドー(旅行通廊)を設定している。
政府タスクフォースは10月に「検査と免除システム」戦略を発表した。旅行促進の最大の障害は英国到着後14日間の検疫隔離だ。計画では、旅行者が政府指定の民間検査業者に空港で1回だけで済む短時間のコロナ検査を受け、隔離期間の短縮を実現する予定。対象国でも多くが出発前検査で陰性証明を求めているので、出発前でも迅速、低廉の検査体制があればよい。しかし運輸大臣は、計画の隔離期間短縮は無症状感染者が存在するので現段階では難しいという。
それでも10月20日、ヒースローから香港に向かう旅客のチェックイン前に80ポンドの迅速なコロナ検査のオプションが始まった。香港は出発前72時間以内の検査結果が陰性なら入国を認める。検査は唾液標本によるものでPCRより短時間で結果が分かり、抗体検査より正確だ。英国は各国からリスク国に分類されるので、残念ながらこの方式で英国の旅行者を受け入れる国は少ない。
香港は“旅行通廊”の対象で英国入国時(帰国時)の14日間の検疫隔離も免除される。このほか対象となるのはクレタ島、イスラエル、スリランカ、米領ヴァージン諸島、日本など約50カ国・地域。11月14日にはUAE、チリ、トルコなど8カ国・地域が追加された。10月下旬、カナリア諸島とモルディブがリストに加わった時、発表と同時に予約が爆発的に急伸した。この地域の収容力は限られるが、このように影響は大きく、冬シーズンの販売ぎりぎりのタイミングで業界の救済策になった。
特に航空業界は対象地域拡大に期待を寄せており、大手航空会社の幹部たちは各国政府に出発前のコロナ検査による検疫廃止を求める。11月16日、ユナイテッド航空はニューアーク空港を出発する旅客に無料で迅速なコロナ検査を始めた。4週間のパイロットプログラムとして各国の政府に見本を示すとしている。しかし、英国政府の動きは鈍い。
本稿執筆時の英国を含む欧州のパンデミックは最悪で、各地にロックダウンがある。当面、感染の広がりを抑えながら旅行産業を維持するためには出発前の検査拡充が有効だ。それは安価で簡便でなければならない。英国旅行業協会は特に中小企業が多い旅行業への政府の支援が他業界に比べて少な過ぎると訴えている。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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