理想の企業像
2020.12.07 08:00
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観光業界にとってインバウンドでもアウトバウンドでも馴染み深い米国の大統領選を見て、世界に冠たる大国のリーダー候補に高材疾足にして胸襟秀麗な人物がいないことへの驚きをもつ人が多いだろう。しかし、米国の為政者が聡明叡知でないのは不思議なことではなく、建国の精神を反映させた結果に過ぎない。
米国は独立戦争を経て、理念に基づいて築かれた国だ。この理念を5つのキーワードに集約すると、自由主義、平等主義、個人主義、ポピュリズム(人民主義)、レッセフェール(放任主義)になる。他国のように土地と血の絆で結び付いた実態としての共同体を出発点とせず、まず「共同体はいかにあるべきか」についての理念があり、その理念に契約的に合意した人々によって米国という共同体が構築された。つまり、米国は時間をかけて徐々に現在の米国になったのではなく、建国の当初から米国だった。
アレクシス・ド・トクヴィルは、約190年も昔に著書『アメリカにおけるデモクラシーについて』において、米国の統治システムの目的は「いかに有効かつ賢明に機能して、国民に最大利益を与えられるか」ではなく、「リスクをヘッジする」ことにあると指摘している。なぜなら、米国民は表層的な甘言密語に惑わされて、時として適性を欠いた統治者を選んでしまう自分自身の愚かさを計算に入れているからだ。
「統治者は、常に有能で清廉実直ではない」というプラグマティカルな認識に立って、統治システムが最も配慮すべきことは、最高の人物を見誤ることなく選出することではなく、愚鈍で能力に欠けた統治者が社会にもたらす悪影響をいかにして最小化するかに重点を置いている。
こうした思考になる理由は、米国は理想の国をすでに達成した状態からスタートしたためだ。そのため、それ以降に米国という国家をどのように改善していくかは課題になりえない。もし改善の余地があるということになると、米国は理想の国家ではなかったという矛盾に陥るので。皮肉なことに米国が世界中で小競り合いをしているイスラム原理主義者とは、過去に理想像があるという特徴を共有する似たもの同士になる。
すっかり政治的な話になってしまったが、最後に企業経営に話を結び付けてみよう。企業も最初に理想の企業像・経営が明らかになっているかどうかで、構築される統治システムが変わってくる。最初に理想像があることの是非は別として、せっかく理想像があるのに、それを蝕むリスクをヘッジする仕組みを作っていなければ、遅かれ早かれ理想像は昔話になってしまうだろう。
反対に、「昨日より今日の会社をより良くする」という漸進的な企業づくりをするときに、無能で不徳な人物に統治を委ねてしまえば、当たり前のことだが期待した結果は得られまい。
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清水泰志●ワイズエッジ代表取締役。慶應義塾大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)入社。事業会社経営者を経て、企業再生および企業のブランド価値を高めるコンサルティング会社として、ワイズエッジとアスピレスを設立。
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