リファンド請求で倒産が増加
2020.12.07 00:00
新型コロナウイルス拡散による顧客の旅行取り消しとリファンド請求の激増で、旅行会社の倒産が増加している。9月以降だけで英国の旅行会社19社が倒産した。パッケージツアーが取り消された場合、英国の消費者保護法でツアーを催行するツアーオペレーターは、顧客に正当な理由があれば14日以内に全額返金しなければならない。航空会社はフライト分の代金返済を7日以内に行う必要がある。航空会社も資金繰りが苦しく返金が遅れがちで、顧客に責められるツアーオペレーターの苦難を倍加させている。
英国のヴァージンホリデイは、規制当局(CMA)の調査を受けコロナが原因で顧客が取り消した旅行代金2億ポンドの返済に合意した。同社はコロナの混乱で取り消された5万3000人の旅行客へのリファンドを正当な理由なく長期に引き延ばしていた。顧客の一部は返金を受けるまで120日待たされた。
10月1週間のリファンド請求は約2000件、コロナ以前平均の9倍に達していた。ツアーオペレーターに大量のリファンド請求が殺到するようになったのは検疫方針や渡航勧告を頻繁に変更した政府にも原因がある。自国と外国の感染状況によって方針が変わるのはやむを得ないが、政府から警告が出れば顧客の多くは購入したツアーを取り消す。
数カ月前からツアーを設定するオペレーターには、特定デスティネーションに対する外務省の渡航勧告で消費者が無条件で旅行取り消し、全額返金の資格を得ることに不満がある。英国旅行業協会(ABTA)は外務省の勧告に従って旅行を取り消した顧客に全額リファンドの決定をしたが、その方針に反対する会員の一部は協会を脱会した。
外務省勧告によって旅行を中止するのは慣行であって法律ではない。勧告されたデスティネーションでも、レベルによって航空会社は運航を続行し、ホテルも開業していれば旅行できないわけではない。業界は渡航先の感染状況に応じた政府のよりきめ細かい対応を望んでいる。欧州連合(EC)は10万人当たりの感染者数によって青、黄、赤のレベルを定め、レベルに応じた域内共通の旅行時の検疫隔離やウイルス検査を加盟国に勧告する。
大手OTAオン・ザ・ビーチ社長は現在のパンデミックの脅威を十分知りながら、政府が突然設定した2週間の検疫隔離を理由に旅行を取り消した顧客にも全額返金する慣行に反対する。法律家も旅行取り消しに関する消費者の権利が適用されないケースを認める。パンデミック前に予約して、パンデミック発生後に取り消した顧客と、世界各地のパンデミックの存在と外務省勧告も十分知っていて予約する顧客を区別すべきという。
ドイツのフランクフルト裁判所は政府の警告に関係なく、代金返済を求め提訴した消費者にコロナによる全額返金の権利を認めた。ドイツも英国も欧州委員会(EC)のパッケージ旅行指令に基づく国内法を採用し、コロナ拡大が旅行者に健康被害をもたらすと解釈した。同法は「渡航先やその直近地域で避け難い異常な状況が発生し、パッケージの催行、渡航先への運航に著しく影響するとき、旅行者は出発前にパッケージ契約を破棄し、取消料を支払わずに(中略)代金の全額返済を受ける権利がある」と規定する。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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