ビジネス旅行回復は容易でない
2020.11.16 00:00
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると18年の世界のビジネス旅行消費は1.4兆ドルで、世界の旅行とホスピタリティー産業部門の21.4%を占める。新型コロナウイルスのパンデミックで世界経済は停止、企業の多くは旅行を制限し、条件を厳しくした。4月には政府の規制も加わり、ビジネス旅行は消えた。投資銀行クレディ・スイスが9月に発表した報告によると、ビジネス旅行需要が19年レベルの80~90%に回復するのは24年。奇跡的に早くコロナワクチンが開発され、地球全体に普及すれば22年の回復を促すだろうが、それでも19年の60~70%にとどまるという。
航空会社やホテルにとってビジネス旅行が重要なのは、収益性において寄与が大きいことだ。航空会社の場合、ビジネス旅行者は払い戻し可能な高額運賃を支払っており、主要航空会社では1割以下のビジネス旅行者が利益全体の55~75%を生むとされる(ニューヨークタイムズ7月13日)。大都市のホテルはコンベンションや企業の宴会が主な収入源になっており、ほとんどの顧客がビジネス目的。豪華ホテルの企業需要は概ね60%といわれる。
しかし、ビジネス旅行需要は歴史的に経済危機からの回復がレジャー旅行の回復よりかなり遅れる傾向がある。フィナンシャルタイムズによると、08~09年の世界不況で米国からの国際ビジネス旅行は13%以上減少したが、国際レジャー旅行の減少は7%だった。またレジャー旅行の需要は2年で完全に回復したが、ビジネス旅行の完全回復には5年を要した。
ビジネス旅行需要の回復が容易でないのはコロナ以外にも理由がある。当初は感染予防のためだったが、企業は日を追うごとに在宅勤務を増やし、旅行予算を減らした。英国では来年、事務所に戻るスタッフは半数にとどまるだろう。企業は人件費より旅行予算を減らす方が痛手が少なく、ビデオ会議の設備投資が生産性に寄与することが分かった。ITテクノロジーと通信ネットワークの進歩も国際的なテレワークの増加と定着に貢献しており、ビジネス旅行需要の回復を難しくしている。
さらに無視できない要因がある。昨年、英国で始まって世界多数の国と企業が宣言するようになった、50年までに温室効果ガス排出をネットゼロにする目標だ。ビジネスクラスの航空旅行を減らすことが脱二酸化炭素のターゲットにされた。世界中で国際的企業がネットゼロ宣言のリストに加わっており、航空会社への影響は大きい。フィナンシャルタイムズはデロイトなど世界各国に顧客を持つ有名コンサルティング会社が出張旅行を制限している事例を紹介している。
ビジネス旅行が将来もコロナ以前のレベルに回復するのが難しいとすると、航空会社やホテルが頼りにする顧客はレジャー旅行者しかいない。航空会社のレジャー旅客は歴史的に機内に詰め込まれ、荷物棚の空きを探さなければならない“2級市民”の扱いを受けてきたが、いまや航空会社は旅程変更料を廃止し観光路線を増やすなどサービスを改善しても確保したい重要顧客になった。レジャー旅行者を主な顧客にしてきた旅行会社やLCCは当面有利な立場だが、今後、確かなことはレジャー旅行市場の競争が激化するということだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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