持続可能な航空燃料へEUの一歩
2020.09.28 00:00
50年までに温室効果ガス排出実質ゼロのクライメートニュートラルを目指す欧州グリーンディール計画に関する気候法案が3月に欧州委員会に提出され、5月にはコロナ後の新たな経済社会構築に向けて経済回復に気候変動対策を統合したグリーンリカバリーが発表された。
欧州委員会はクリーンな移動手段や代替燃料に関連して持続可能な航空燃料(SAF)促進のため公開協議を8月から開始し、この動きはSAF使用を全加盟国に義務付ける予告と受け取られているとフィナンシャルタイムズが報じている。
すでにノルウェーは割合を0.5%から30年までに30%に、スウェーデンは25年までに10%に引き上げるとしている。
持続可能な航空燃料の価格は従来のケロシンと比べて4倍も高い。50年までに05年比で温室効果ガス50%削減を目指すIATA(国際航空運送協会)の行動計画が守れそうもないという厳しい現実を前にして、SAF使用圧力が強まっている。現在、航空による温室効果ガス排出量は世界の2~3%を占めているが、他産業の脱炭素化が早く、航空の割合はローランド・ベルガーの予測では25%になる恐れがある。
各国の気候変動対策を分析調査するクライメート・アクション・トラッカーは、新型ウイルスによる航空需要減少にもかかわらず国際航空によるCO2排出量は15~50年に220~250%上昇すると推測。理論上では持続可能な航空燃料は問題に対処できるが、それだけで実質ゼロの達成は難しく、前述の調査機関は設備投資や2次原材料の確保、競争等を考慮すると50年までに10%というのが現実的目標とみている。実質ゼロには機体や飛行の改善から旅客数の制限まで多様な方法を取る必要がある。
とはいえ短時間で航空エミッションを削減するにはSAFが鍵となることは間違いない。家庭や自治体、産業廃棄物から作られる第2世代のバイオ燃料は燃焼時にケロシンとほぼ同量の炭素を排出するが、ライフサイクルでは排出量は最大80%少ない。問題は生産量が極めて少ないことだ。
IATAによれば現在の持続可能な燃料の年間生産量は5000万リットルしかなく、ある業界トップはSAF生産量を1000倍増やさねばならず、50年に航空業は5億トンのSAFが必要だという。国際エネルギー機関(IEA)によればジェット燃料需要の2%を満たすにも新たに10の精油所が必要で、100億ドルの投資が必要となる。
新型コロナパンデミックによる世界的航空危機の中でもSAF開発生産に投資する動きはある。たとえば米ランザテックはカナダと日本の企業と組みジョージア州にパイロットプラントを建設中だ。22年から年4000万リットルのSAF生産を開始し、全日空とヴァージン・アトランティック航空が購入を約束している。英国ヴェロシーは国の支援を受けブリティッシュ・エアウェイズとシェルとの協力のもと市の塵芥からSAFを25年より年5万トン生産する。
SAF生産は巨大事業となる。需要を満たすには3兆ドル超が必要とされ、達成には産業、政府、行政の協力が不可欠。EUが始める最低限の割合のSAF使用義務化は大きな一歩となりそうだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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