ソーシャルディスタンスは痛手
2020.08.17 00:00
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/covid-19-4939288_640.jpg)
ソーシャルディスタンスの規制で利用者を減らすことは、クルーズ会社や航空会社に大きな痛手だ。英フィナンシャルタイムズは以下のような状況を伝える。世界のクルーズ産業は常に満室で航行するビジネスモデルが基本で、大洋を航海し平均約3000人の乗客を乗せるクルーズ船は満室かそれに近い状態で運航される。米国の航空会社の平均的損益分岐点は有償搭乗率75%だが、3席の1つを空席にするフライトでは8ポイント高くなる。米国の航空会社はコロナ以前に平均約84%の搭乗率を維持して高利益を上げていた。
クルーズについて7月に欧州連合(EU)が発表したガイドラインは、期間を最大7日に短縮、寄港回数を減らし、ビュッフェ提供をやめ、1.5mのソーシャルディスタンスを適用、約30%を占める65歳以上の顧客に乗船前の健康チェックを行い、グループ間の感染拡大を避けるためにアクテイビティーを年齢別に行うことを求める。
クルーズ再開を目指す2位のロイヤル・カリビアンと3位のノルウェージャンクルーズは船上のウイルス拡散を防ぐ独自の方策を検討する専門家パネルを設置し、新たな健康対策ができるまで航海を再開しないと発表した。市場の70%を押さえる最大のカーニバルクルーズは、自身の専門家グループを7月末に新型コロナウイルスの影響に関するサミットに参加させる。英国外務連邦相は10月までは出航禁止を継続すると発表した。英国発のクルーズは3月から停止しており、大手ブランドは自発的に秋まで運休する。P&Oクルーズは10月15日まで全船運休しているが、姉妹会社のキュナードも11月まで運航を取り消した。
航空産業に対して米疾病対策センター(CDC)は機内の衛生管理などガイダンスを示したが、フライトに関する米国政府の明確な指示はない。航空会社は自主的に運用方針を決めるなかで、ソーシャルディスタンスの維持や空席を残して販売するかについて各社の方針は分かれている。
ユナイテッド航空は中間席を埋めるのを認める予定だが、デルタ航空とサウスウエスト航空は完全に満席のフライト開始は秋まで待つ計画だ。アメリカン航空は7月1日から中間席を含め満席にする販売方針に戻すと発表したが、各方面から猛烈な批判を浴びた。一方、デルタ航空は9月末まで最大60%の満席方針を示して顧客から歓迎された。デルタの収入の半分はビジネス客で、バスチアンCEOは他社より優れたサービスを提供するとして、運賃は米国の競争相手より概して高めだ。同CEOはデルタブランドを守るため、「個々のフライトに乗客数を最大化するより便数を増やしたい」と述べた。
需要は夏に向け上昇機運が見られるが、クルーズ業界も航空業界も旅客の安全を保証しつつ生き残りに必死の状況は変わらない。7月にヘルシンキとストックホルムを運航するタリンク&シリヤラインの1泊航海で乗客に新型ウイルス感染が判明、旅行への懸念が再び高まった。通常70航路のうち航行中5航路の1つで起きたことだ。同社は乗客の検査を行わなかったが、乗船の際に症状の兆候の有無を質問した。クルーズで、世界でこれまで少なくとも70隻のクルーズ船に陽性者が報告され90人以上の乗客と乗員が死亡している。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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