クルーズ経営の新たなデザインは…
2020.08.10 00:00

クルーズライン国際協会(CLIA)は6月19日、米国のクルーズ船の運航休止を9月15日まで延長すると発表した。すでに米国疾病予防管理センター(CDC)が7月24日まで、船客250人以上の海洋クルーズ船の運航停止を決定しているが、業界団体が自主的にその時期を延長した。クルーズ各社は8月以降の再開スケジュールを一部公表しており、CLIAとCDCは船客およびクルーの安全管理の条件の合意を目指していると思われた矢先のことである。今回の延期の理由は、再開を阻む障壁の解決にまだ時間が必要と述べ、状況によってはさらに延期の可能性についても示唆している。なお、カナダ、オーストラリアも同様な長期の停船措置を講じている。
この間、5月のトラベルウイークリーは、カーニバル社社長の、業界の意向ではなく社会全体にコロナウイルスの理解が進み、「社会的な集会」が認知されるまではクルーズの議論はできないと憂慮と慎重な姿勢を伝えていた。
クルーズ会社は、コロナ後にクルーズの構造が大きく変化することは確実と想定して、コロナや今後も予想される新しい感染症の時代に生き残れる新しいクルーズ船の模索を始めている。
6月のUSAトゥデイは、クルーズ設計・内装に実績のあるギリシャの建築事務所AMKが提案する新しいデザインのクルーズについて、以下のとおり紹介している。
・クルーズは狭い空間に多くの船客を収容し、特に主力である大型船の客数は多い。密閉空間は呼吸器系ウイルスが飛沫と菌が付着した物体経由で感染しやすい。クルーズは「人が多ければ多いほど楽しい」という世界であるから、ウイルス伝播は容易である。今後のクルーズに必要なことは、まず適切なフィジカルディスタンシングのための船客数の減少である。
・人の手が触れる恐れのある設備・家具を減らす。空気清浄と家具のクリーニングが重要。
・人が過密になる乗船・下船エリアには「消毒ゲート」を設置し長い列ができない工夫を講じる。エリアと廊下には抗菌性カーペットを用いる。
・船室内カーペットと家具素材は抗菌性、浴室は人が触れる部分を減らし、シャワーカーテンはガラスの仕切りに。船室外に入室前に靴、洋服を脱ぐ閉鎖スペース(靴脱ぎ室)を設置する。
・船客が減ればクルーの数も減少させる。従来の4人部屋から2人部屋を基本に。
・食事はビュッフェ方式を廃止。テーブル間の適切な距離を確保する。必要ならテーブル間に仕切りを設ける。ビュッフェを継続するなら、カウンターを増やすなど列を作らない工夫が必要。
・劇場やディスコは屋外のオープンエアに移し、雨天用の覆いを設置する。
・一般船室から隔離した広い医療用船室を設置。医療施設強化とスタッフの充実、医療施設の高度化がクルーズ各社競合の大きな要素になる。
クルーズの再開がいつになるかという目の前の問題とともに、新しいタイプのクルーズを旅行者が受け入れるのか、そして今後のビジネスとしてクルーズ経営はどうなるのか、コロナとの共生の時代の大きなテーマである。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
英VAT免税制度廃止の影響
?>
-
再びGoToへの誤解に
?>
-
円安で亡国
?>
-
米ホテルのオフ期料金に変化
?>
-
タッチというニッチなニーズ
?>
-
自由競争が開く未来
?>
-
スロットの使用率基準巡る攻防
?>
-
まわりもの
アクセスランキング
Ranking
-
KNT-CT、6割増収で赤字縮小 今期の黒字化予想 非旅行業を強化
-
訪日実証ツアーで観光再開へ前進 米国など4カ国 旅行大手6社が実施
-
「このままでは観光孤立国に」 観光関連団体、水際対策緩和要望で危機感あらわ
-
4月の客室利用率63.8% 前年比18.5ポイント増 9地域でプラス
-
旅行促進へメタバースの役割増加 83%が購買に興味
-
クルマ離れが変える旅 免許保有率低下のなかで
-
エクスペディアが新戦略、事業者の旅行販売を包括支援 検索機能の改善も
-
関西経済同友会、舟運の活用を提言 クルーズで関西の広域観光模索
-
持続可能な旅の企業連合、エクスペディア加盟で活動に広がり CO2排出量測定など
-
旅行の成約率が上昇傾向 買い物かご放棄は減少