コロナ後の鍵はグリーンリカバリー
2020.07.27 00:00
6月中旬から欧州では域内の入国制限や渡航警告が徐々に緩和されている。欧州はポストコロナの持続可能な未来社会を描きながら、疲弊した経済復興を図るコンセプトを立てている。コロナ禍で少し関心が薄れた環境問題があらゆる分野で再び重要視され、グリーンリカバリーは今後の観光において鍵となりそうだ。
6月15日に欧州連合(EU)は域内での基本的な移動制限を緩和し、各国は重要な柱である観光の立て直しに着手した。ハイシーズン開始に間に合うタイミングは旅行業者にも消費者にも朗報だが、各国の事情の違いで足並みは揃っていない。
ドイツ政府がEU加盟国への渡航警告を解除した6月15日早朝、デュッセルドルフ空港から165人のドイツ人休暇客を乗せたTUIのチャーター機がマヨルカ島に向け飛び立った。スペインは入国制限を実施していたが、バレアレス諸島(マヨルカ、メノルカ、イビサ、フォルメンテラ島)自治政府の要請に応じドイツ人に限って1万900人を6月15日から試験的に受け入れを許可した。
自治政府はドイツのTUIとDER、シャウインスラントの3社、地元のホテルと協力し今後の入国制限解除に備えてコロナ安全対策を実地チェックして他のスペイン観光地に資する情報を収集した(スペイン政府はその後、欧州観光客受け入れを6月21日に前倒しした)。バレアレス諸島にとってドイツは最大の市場で、コロナ感染が同じような高水準で制御されていることからドイツが選ばれた。
機内サービス、空港、ホテル、移動、検温、消毒、マスク、ビーチチェア配置、ソーシャルディスタンス等々あらゆる点が精査され今後に生かされる。ツアー参加者は静かで安全なマヨルカを再発見して大満足であった。この実験はドイツのみならず欧州中のメディアに取り上げられ、初日だけで35億ユーロの宣伝効果があった。
5月27日に欧州委員会(EC)は経済復興のための総額220兆円の次期中期予算を発表し、予算とは別に約89兆円の「次世代EU」と呼ばれる復興基金を創設。環境重視の持続可能社会移行に重点を置いた冷え込んだ経済の復興「グリーンリカバリー」を推進する。エネルギーにとどまらず、金融や社会政策などすべての分野に及び、欧州はコロナ後の復興に気候変動、持続可能社会政策を統合した。
こうしたなか、ドイツ政府は6月3日に約16兆円の第2弾コロナ経済対策を発表。年末まで付加価値税3%減税などの刺激策が含まれるが、特に気候変動対策に重点が置かれている。輸出の最大花形である自動車産業では、財界や生産拠点州が購買プレミアをガソリン車に適用するよう強く求めたが、Eカーのみに限定されたことはグリーンリカバリーの方向性を反映している。
ドイツの未来研究所はコロナ拡大以前の未来の観光像を描いたトレンド研究を昨年発表し、注目されていた。過剰供給気味の観光の変調は昨年すでに認められ、未来の観光はヒトとモノとの濃い経験、本物の体験の旅、持続可能な観光が求められ、鍵は「共鳴する旅」となると論じている。マヨルカ島へ実験ツアーが実施された日、研究所はいまこそ新たな未来の観光コンセプトを立てる絶好の機会であると述べている。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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