自己の常識は世界の非常識

2020.06.29 08:00

 常識という言葉はやっかいである。なぜならそれは己の世界での話であることが多く、ところや時が変われば、実はちっとも常識ではないからだ。前職のベルトラでの旅行ビジネス創業時代、いろいろな諸先輩方から「アクティビティーだけやっても儲からないから、やめておいたほうがいい。手間がかかるだけだ」とのお言葉をいただいたのがいまだに忘れられない。

 実際にやってみて、確かにその通りでもあった。が、それが逆に、それゆえの好機も発生させていたからである。当初の3倍の時間はかかってしまったわけだが、事業開始から15年経って、なんとかよちよち歩きではあるが公開企業となり、巣立っていった。それはもう1年半も昔のことだ。光陰矢の如しである。

 同じようなことは、他の産業、あるいは同じ旅行業の他のジャンルにもあてはまることが多いように感じる。それは恐らく、人間の本質が、いま見えているものは、ずっとこれからも存在する・してほしい、という暗黙の前提や希望をもって見てしまっているからではないかと思うことがある。だが、万物流転、諸行無常である。ものやことの本質がそうであるから、難しい理屈で説明する必要もなく、時代とともに場所を超えて、変わるべきものは変わっていく。それを加速させているのが、インターネットが生み出した個人の覚醒パワーだ。

 ベルトラで旅行業に参入する以前、00年に同社代表に就任した時、10年後(いまからみれば10年前)の世界、社会、経済の姿を想定し、所信表明をした。当時はまだインターネット黎明期であったが、すでにその時5年ほど経験していたITコンサルタントの商売を通じて、未来は間違いなく個々人の力がいまのメディアより大きくなり、デジタル化の波は単に便利とか安くできるなどの生産性向上に限定されることなく、人間の心や組織のあり方、ひいては社会全体での認識(常識)をも変えてしまうはずだと考えた。

 新型コロナウイルスで多くの貴重な命が日々失われていくなかにあって、米国で1人の黒人の命が非条理に奪われた事件。これは同国内にとどまらず、まったく別の国々の生まれも環境も実生活も違う人たちまでも、あっという間に動かした。このスピードはウイルスの拡散スピードに勝るとも劣らない強烈な印象を受けた。そう、ついにその時がやって来たのだと思った。これまでの、仕方ないでは済まされない、そのぐらい世界が一瞬で一体化した。デジタル化の波とは、ここまで人々の行動を変容させたのだと思うと、万感胸に迫る思いであった。

 これをピンチととるかチャンスととるか、人それぞれであろう。私はもちろんチャンスととりたい。人々の行動様式というのは通常はあまり劇的に変わることは少ないからだ。が、社会が大きく変容している時、それは起こる。いま、まさにそれが起こっている。事件は常に現場で起こるのだ。現場で起こっていることから、その背景、未来を正しく推定し、いまの常識を正す。あるいは捨てる。これをできる人、そして会社だけが正しく生き残り、大きく成長できると信じている。

 今後、最も大きく変容する産業は恐らく金融業と旅行業であろう。クレジットカードの発明にいずれの産業も関連していることは特に興味深い。しかし、これからは業界分類そのものがナンセンスな時代となる。フィンテックの世界は猛烈なスピードで日々進化している。ビジネス革命家を自認する私は、旅行業のさらなる変革、デジタル化促進で全体の底上げに少しでも貢献できればと思っている。諸先輩方のご意見もぜひいただきたい。そこに大きなヒントやチャンスがある。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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