デポジットで苦しむツアーオペレーター
2020.06.22 00:00
新型コロナウイルスで旅行を取りやめた顧客がデポジット(前払金)の返還を求め、ツアーオペレーターと争うニュースが増えている。旅行予約時、オペレーターは宿泊施設などにデポジットを入れる。今回のように急速に世界経済が収縮すると、サプライヤーからの返金もすぐには期待できない。ツアーオペレーターはすでに宣伝や販売に出費しており、それも取り戻せず販売手数料もないが、顧客のデポジットは運転資金に使われ手元にない。18年に改正されたEUパッケージ旅行指令(PTD)は「顧客から請求があればツアーオペレーターは必ず14日以内に返金に応じなければならない」と規定する。
旅行業界を破綻から救うため、4月にドイツ旅行業協会と政府はデポジットをバウチャーで返金できるようEUに申請したが拒否された。しかし5月13日、欧州委員会(EC)はバウチャーによる返金を認める勧告を各国に通達した。PTDは「不可避の異常な環境下では顧客に現金でなくバウチャーで返金できる」とするが、顧客が了承する場合に限られる。この勧告が国内法に取り込まれる前に、すでに欧州のいくつかの国はバウチャー返金を許可した。
英国旅行業協会はバウチャーと同じ性質のリファンド・クレジット・ノート(RCN/負担額通知書=商品返却時に販売店が購買者に発行)の承認を政府に求めた。許可されればRCN利用促進の一助にはなる。政府の承認は、併せて業者倒産時に適用されるATOL弁済保証制度でRCNの不渡りを防ぐ。それでも多数の顧客が実際にRCNやバウチャーのオプションを受け入れる保証はない。業界も消費者団体にツアーオペレーターの経営が危ない、あるいは詐欺的行為と解されることを懸念する。
英フィナンシャルタイムズは次のように分析する。旅行取引における顧客のデポジットはごく短期の通知だけで全額返却されると認識されている。意図されたかどうかはともかく、PTDは自己資本比率など銀行に適用される規則を欠くにもかかわらず、ECがツアーオペレーターを事実上デポジット保有機関にしたことを意味する。今回、これが業界全体の崩壊を招きかねない大規模の取り付けリスクを顕在化させた。
ツアーオペレーターの資産といえるのは、顧客のデポジットを使って予約している施設とサービスに対する潜在的な請求権だけだ。RCN発行はある程度キャッシュフローの穴埋めに役立つが、その性格から保証にはならない。
英国ツアーオペレーターの公的救済はやがて必要だが、業界自体も返金請求をRCNで切り抜ける手腕が生き残りに必要だ。経済的余裕のない顧客には実行可能な担保の形でRCNを現金に交換できる何らかの手段が提供されるべきだ。可能な代替案としてフィナンシャルタイムズが提案するのは、RCN自体が旅行取引全般に通用する非公式の並行通貨になる、または国内旅行需要復活のために事実上消滅した外国人旅行需要を英国人の国内旅行で埋め合わせるメカニズムとして活用することだ。
オペレーター業界の苦難は、受け入れ国の観光業を苦しめる。特にスペイン、ポルトガル、ギリシャなどのサプライヤーにデポジット返還を迫るツアーオペレーターの行動は経済的苦境にある地域の人道的危機を招きかねない。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
観光の限界点のその先に
?>
-
みらいとは
?>
-
縦社会の経験
?>
-
ああ夏休み
?>
-
高騰する米大学の授業料
?>
-
旅の価値変革
?>
-
モンキーツーリズム
?>
-
非認知能力
キーワード#ABTA#新着記事
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
水上温泉、3年目の廃墟再生マルシェに4400人 旧一葉亭の施設生かし
-
日米観光交流年で旅行企画コンテスト、父と息子の宇宙旅が大賞 シンポジウムで需要回復議論も
-
韓国パラダイスシティ、日本からのMICE誘致に注力 初のイベントで訴求
-
トラベルリテラシー 旅する力を育てよう
-
「観光が怪物にならないために」 JARTAが警鐘 産業に自覚と責任促す
-
さとゆめ・HIS、新事業が本格始動 まず4自治体と協定 人口2000人規模の村など
-
訪日消費の詳細データ開放 観光庁、企業やDMOの戦略策定に
-
横浜の旧第一銀行を新名所に 国内外の工芸品集積 ものづくりを発信
-
地銀の相互観光誘客、連携が拡大 3行で瀬戸内ツアー 地場産業に光
-
8月の免税売上高、伸び鈍化 購買客数も成長率40%台に