コロナ危機と航空への公的支援
2020.06.01 00:00
航空会社は社会の重要なインフラだが、いまは世界で航空機の80%が地上にとどまり、デルタ航空のエド・バスティアンCEOは完全回復に3年を要すると述べた。欧米でも航空会社の資金繰りは底を突きかけており、大幅な人員削減と緊急支援が必要だ。国に航空会社がなくなるのは困るが、欧州の元フラッグキャリアは多国籍になり、救済も1政府の問題ではない。
米国政府は4月末、コロナ救済パッケージ3兆ドルのうち250億ドルの救済資金を米国のメジャー旅客航空会社10社(アメリカン、デルタ、サウスウエスト、ジェットブルー、ユナイテッドなど)に直接支給すると発表した。一部は弁済や新株引受権を要求される可能性もあるが、米国の対応は極めて迅速で寛大に見える。
対照的に欧州では政府の航空会社対応は概して厳しい。3月下旬に英国の主要航空3社(IAG、ライアンエアー、ヴァージン・アトランティック)は英国政府に緊急支援を求めた。3社の存続に合計75億ポンド必要とされる。具体的には、信用供与、航空管制料金の凍結、旅客補償規則の凍結、APD(航空旅行者税)の暫定免除などを申請した。英国政府は各社にまず民間資金の調達努力を求め、その結果を見て各社と個別協議に入るが全面支援はないだろう。当面、無給休暇期間の従業員賃金に2500ポンド上限の80%補填、6月末までのVAT支払い猶予を決めた。APD免除はない。
ドイツのルフトハンザグループ(傘下にオーストリア航空、スイスインターナショナルエア、ブリュッセル航空)は関係国政府に支援を要請したが、ドイツ政府は90億ユーロの公的支援の代わりに役員ポストを求め、反対する会社側と4月末現在、協議継続中だ。会社は米国破産法に類似した保護手続き申請を示唆し交渉を優位に進めたい模様。エールフランス-KLMは約100億ユーロを仏蘭両政府から環境対策強化を条件に概ね融資の形で獲得した。
一方、格安航空の中には公的支援に頼ることなく、自力で早期復活を目指す動きがある。不要不急の渡航を禁止する国が多いなかで、ハンガリーのLCCで東欧最大のウィズエアーは4月8日からロンドンのルートン空港からリスボンを含む15都市に運航を始めるとし、年末までに全航空機を動かすと発表した。渡航制限緩和に応じて5月に全キャパシティの10%、7~8月に70%とフライトを増やす計画だ。ヨージェフ・バラディCEOは各国政府が5月から6月初めに渡航制限緩和を始めると予想、その強気は競合する LCCライアンエアーのマイケル・オレアリーCEOと共通する。ライアンエアーは欧州の飛行が7月初めから可能になれば9月までに80%のフライトを復活させる計画だ。
ウィズエアーは安全な航空旅行を保証するとして、乗員と旅客のマスク、除菌ローションなどを配布し、当面は中間座席を空席にする。格安運賃で需要を創り、破綻する航空会社が取りやめるデスティネーションに拡大を狙うという。
バラディCEOはレガシー航空への支援はLCCの経営を圧迫し市場を破壊すると非難する。現在のような需要縮小が続けば、さらなる融資があっても存続できない会社が増える。消える会社と政府ヒモ付きの会社で業界はどのように変わるのだろうか。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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