旅行業界の人間でなかったことが幸いした
2019.10.28 08:00
![](https://www.tjnet.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/tjo-shiza-innovation-561388_640.jpg)
「創造的破壊」という言葉がある。シュンペーターという経済学者が、新しい商品・サービスが生まれるとき、それまで当然だったと思われてきた業界の常識がそうではなくなり、代わりにまったく新しい要素の組み合わせ(結合)により革新が実現すると定義したものだ。経済発展の歴史は常に創造的破壊がベースであったように思う。
旅行業においても創造的破壊は常に実現されてきた。海外旅行が普通でなかった時代から、いまや季節・場所によっては国内旅行の方がぜいたくな、そんな時代になった。一方で、いま旅行会社という概念そのものが大きく変わろうとしている。好むと好まざるとにかかわらず、変化と革新は確実に訪れる。これらにどう立ち向かっていけばいいのだろうか。
世の中が変化するとき、避けて通れないのが技術の革新である。あわせてオペレーションの革新も重要な役割を果たす。これらの新しい組み合わせにより、それまで誰も考えつかなかった思いがけない利便性が提供され、新サービスがあっという間に広がる。シュンペーターは、これをさらに大きく俯瞰した5つの視点から革新の可能性を挙げる。それは、プロダクト(商品)、プロセス(生産方法)、サプライチェーン(仕入れ)、マーケット(ユーザー)、そして組織そのものの革新だ。
一例をあてはめると、ここ数年で話題になったウーバーやエアビーアンドビーは、サプライチェーン(仕入れ)を一般ユーザーに変えるという実に大胆な構造革新で世に一石を投じ定着しつつある。企業のM&Aも見方を変えれば、組織の革新である(合併でシェアを増やす)。
旅中(タビナカ)という不思議な言葉が流行って久しいが、何をしたいか、旅先で何をするか、これは料理でいえばそもそもオプションではなくメインディッシュである。が、それを事前に決めてレストランに行くのか、行った先のレストランで決めるのか。これまでは事前に決めるだろう(そうしてほしい)、その前提でこの業界は動いてきたはずだ。
が、ユーザー目線でみると、何をしたいか・食べたいかなど、現地に行ってから、あるいは当日の天気や自分の気分で決めたい、そう思う人が実は多数派のはずである。そこで、いかにしてこのような直前ニーズに対応するか、ここでオンライン系の旅行会社は競ってきた。が、これからのビジネスはそれでも不十分だと思う。裏で企業同士のシステムがどう結合されているかなどユーザーにはどうでもいいことで、「欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけ」提供してくれればそれで十分だからだ。
直前だと手配できないから事前に予約してほしい、これはすべてサプライサイド(供給側)の都合である。であれば、在庫があろうがなかろうが、それを常に可能にするにはどうすればいいかと考えて、ビジネススキームを考え直すべきだろう。もちろんそれは簡単ではないので、数々の常識を疑い、あるいは根本からいったん捨ててかからなければ、新規の事業を創造的に立ち上げることなどできない。オンライン企業であろうがなかろうが守りに入った会社は滅ぶのが常、攻撃は最大の防御である。
ウーバーやエアビーアンドビーがやったことは、供給者=旅行者というとんでもない仕入れの再定義をしたことにある。が、ここにこそ、これほど大きな市場を短期間でつくりあげたヒントがあった。これらの発想は彼らが旅行業界の人間ではなかったこと、これが幸いしたと思っている。ここに1つ事業成功の大きなヒントがある。成長に外部の視点はとても重要である。
荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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