ポナンのポール・ゴーギャン買収で注目の小型船高級クルーズ
2019.10.14 01:00

8月の仏紙フィガロおよび多くの業界ウェブサイトが、ポナンクルーズ(Ponant Company)が、ポール・ゴーギャンクルーズ(Paul Gauguin Cruises)を買収すると報道した。
ポナンはフランス国旗を掲げる同国唯一のクルーズ会社で、1988年創設、本社はマルセイユ。今年就航を含めて1万トン級、定員各180~260人の8隻と3本マストの1489トン、船客64人のヨット1隻を有し、さらに液化天然ガスによる最新鋭の砕氷船を含めて新造船3隻を発注している。運航先は南極を含む全海域で日本にも寄港している。主要市場は米国とフランスで、フランス人クルー、洗練されたインテリア、本格的フランス料理等フランス文化を象徴するホスピタリティーが特長である。
一方、ポール・ゴーギャンクルーズの本社は米国ワシントン州だが、唯一の所有船ポール・ゴーギャンは98年以来、タヒチを基点に年間を通じて仏領ポリネシア、フィジー等南太平洋へのクルーズを運航する。1万9200トン、166室、定員332人の小型船である。米国人が主要顧客で、新婚旅行、インセンティブ団体が多い。
両社の共通点は小型船による高級クルーズであるが、対象とする市場と就航デスティネーションが異なる。統合のメリットは、双方の商品を横断的に販売することで、ポナンの顧客には南太平洋を、ポール・ゴーギャンの顧客にはその他海域へのより広い選択肢を提供することと両社トップは述べている。ポナンの米国支配人は、ポール・ゴーギャンという船名を聞くだけで、クルーズと無縁の人もただちにタヒチをイメージするとその魅力を強調している。
また、環境問題への熱心な対応についても共通で、ポール・ゴーギャンは船上でのプラスチックストローをすでに廃止しており、ポナンは海洋、極地、住民の環境保全を目的とするポナン財団の創設を今年発表している。買収後も両社はそれぞれのブランドを維持し、経営陣も変わらず、独自に経営を行っていく。
最近のクルーズの世界では、次々に就航するメガシップの話題が多いが、小型船ほど高級クルーズであるというのが伝統的な定説と聞いている。巨大化により低価格を提供し、「動くテーマパーク」といわれ、大規模なエンターテインメントを提供する大型船はファミリー層に人気があるが、船内が騒がしく時として混雑する難点がある。
小型船は細やかなサービス、落ち着いた雰囲気があるが料金が高い。ここでいう小型船は最大3万トン、船客500人以下というのが一応の基準になっているらしい。現在、世界最大の客船はシンフォニー・オブ・ザ・シーで、22万8000トン、船客5535人であるから小型船との違いは明らかで、船客が体験するクルーズライフはほとんど別世界のものといえるかもしれない。
また、小型船クルーズの特長の1つは狭い海域や港湾に接近できることから、極地やガラパゴス島などへのアドベンチャークルーズである。現在ブームのリバークルーズも、船体の構造上、小型船の範疇である。限定された船客への質の高い船上サービスを求める旅行者の強い要望は小型船海洋クルーズへの期待と共通するものかもしれない。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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