独禁法違反でGDSを調査する欧州委員会の懸念

2019.02.18 08:00

 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)など主要航空会社による IATAの NDC(新流通規格)採用とGDSサーチャージ課徴などでGDSをバイパスする動きが広がり、GDSは苦境に陥るとみられていた。航空会社が NDCを採用する目的は、自社の差別化したサービスや直販の促進、GDSコスト削減だ。この目的は変らないはずだが、今は不思議にも航空会社とGDSが良好な関係を築いている。GDSはNDC認証の資格を得て、自社システムに航空会社のコンテンツを取り入れた。しかし今回、欧州委員会(EC)がGDSを独占禁止法違反の疑いで調査したことは、GDSがエージェントを悩ます新たな問題になるということか。

 昨年末、ECはアマデウス、セーバーと航空会社、旅行会社のGDS契約が独禁法違反の疑いがあるとして調査を始めた。航空券販売市場における競争制限が焦点となる。対象になるGDS契約は、航空会社が両社と競争する他業者(データアグリゲーター)にも使わせることができる情報の制限、および航空会社自身のウェブサイトを含む他のどこでも提供されるものと少なくとも同等のフライト情報と運賃を提供することを航空会社に義務付ける契約上の制限を含む条項だ。

 独禁法担当者が懸念するのは、これらの制限が潜在的な競争業者の成長を妨げ、航空会社のコストを増加させ、消費者に対する運賃値上げをもたらすことにある。これらはEU単一市場(欧州連合機能に関する条約101条)内の競争を阻み、制限し、歪曲する企業間の契約を禁止する競争規則に違反する可能性がある。調査の終了期限はない。

 アマデウスは、調査は予想されていたものでECに協力すると発表し、「アマデウスの商慣行が完全に法律、規則の要件に合致していることが確認されるだろう。GDSが提供する中立的(一方に偏らない)市場は、フライト情報の比較と選択を容易にしている」と主張。セーバーも調査に協力するとし、「当社のフルコンテンツ契約と旅行会社との契約が競争促進的であることを立証できる機会を歓迎する」と発表。「旅行会社のために航空コンテンツの競争力あるアクセスを提供するコミットは変わらない」と宣言した。トラベルポートはなぜか調査対象にならなかった。

NDC接続可能な業者を優遇

 一方、NDC採用の先頭を切った LHは、旅行業界から訴えられている。12月19日、GDSと大手OTAを代表する欧州テクノロジー旅行サービス協会(ETTSA)は、ドイツのデジタル旅行業界団体(VIR)と共同で、LHを独禁法違反でECに訴えた。協会が主張するのは、LHグループが国内市場で独占的な地位を組織的に活用し、伝統的なGDS経由の運賃利用を制限し、最安運賃は直接またはNDC接続可能な契約をした中間業者だけに限定して差別的な販売をしていることだ。

 ETTSAは15年にも、LHのサーチャージ徴収を不当としてECに訴えたが、ECが調査を完了しなかったので、欧州行政監察官(オンブズマン)に苦情を申し立ててきた。この裁定は、次のEC規則改正が必要とされる。ITの進化に伴う必然的な犠牲かもしれないが、欧州旅行業界の中でOTAを含む独立系エージェントには、現在のところ航空会社とGDSのNDC導入の恩恵はないようだ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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